ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
7.3.7項   設計・開発の変更管理 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その45>
35-01-45
7.3.7  設計・開発の変更管理
[第1節]
[第1文] 設計・開発の変更を明確にし、記録を維持すること。
[第2文] 変更に対して、レビュー、検証及び妥当性確認を適宜行い、その変更を実施する前に承認すること。
[第3文] 設計・開発の変更の レビュー には、その変更が、製品を構成する要素及び既に引き渡されている製品に及ぼす影響の評価を含めること。
[第2節] 変更の レビュー の結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。
1. [7.3.7項]の概要
  本項では、設計開発活動中の製品仕様の目標又は確定した製品仕様を変更するための設計開発活動が、所定の顧客のニーズと期待を満たすものであることを確実にするための設計開発活動の管理の要件を規定している。
 
 
2. 設計・開発の変更管理
(1) 設計開発活動に関連する変更
  JIS和訳「設計・開発の変更」は英原文では群名詞(1)の、design and development changeであるから、「設計開発活動に関連する変更」という意味合いでの「設計開発活動の変更」である。 そして、この「設計開発活動の変更」とは、設計開発活動中に目標の製品仕様を変更するために設計開発活動の計画を変える、或いは、設計開発活動で確定した製品仕様を変更するために過去の設計開発活動をやり直す、という意味である。 なお、後者の設計開発活動の変更には、製品の製造又はサービス提供の段階で製品又はサービスの顧客への引渡し前に必要となる場合と、製品又はサービスを引渡した後に必要となる場合がある。 いずれの変更も、設計開発活動の結果の製品仕様の変更が目的であるから、「設計開発活動の変更」とは実質的には「製品仕様の変更」である。 なお、94年版では「設計・開発の変更」は「設計変更及び設計修正(change and modification)」と表現されていた#1が、設計開発活動中の変更を「変更」、設計開発活動後の変更を「修正」と区別して表現していたものと考えられている(3a)
 
(2) 製品仕様変更のための設計開発活動の管理
  製品仕様の変更のために行なう設計開発活動が、製品仕様変更の所定の狙いの顧客満足を間違いなく、かつ、所定の期間と資源で実現することができるようにするためには、当該の設計開発活動を管理しなければならない。JIS和訳標題の「設計・開発の変更管理」は、このような設計開発活動の管理のことであり、実質的には製品仕様の変更の管理である。 この「設計・開発の変更管理」の要素や要件は、基本的には一般の設計開発活動の管理の場合(7.3.1〜7.3.6項)と同じであるが、変更のための設計開発活動の管理に特有の管理要素や適用のしかた、要件もある。
 
(3) 設計開発活動中の製品仕様の変更の管理
  設計開発活動の過程で目標の製品仕様や適用する設計開発基準(7.3.2項)を変更する必要が生じるのは、顧客の意向が変更された場合(7.2.1 a)項)や、設計開発活動での検証、妥当性確認及びレビュー(7.3.4〜6項)によって目標の変更が不可避又は好都合と判断されたなどの場合である。 いずれの変更も、組織が確立した製品の設計開発活動の管理に関する手順では「設計開発へのインプット」(7.3.2項)の変更に相当するから、変更した製品仕様を新たな設計開発活動の設計開発条件と見做して、設計開発の計画を更新し(7.3.1項)、必要な段階又は必要な部分から設計開発活動をやり直す。
 
(4) 設計開発活動後の製品仕様の変更の管理
  設計開発後の製造又はサービス提供の段階で、或いは、製品を定常的に製造又はサービス提供する中で、当該製品仕様を満たすことに技術上の問題や、コストや生産性の問題((8.2.3, 8.2.4項)があり、合否判定基準を含み製品仕様の変更がどうしても必要になる場合がある。 また、原材料や部品の調達上(7.4項)や、製造又はサービス提供の方法(7.5項)の状況変化により、それらに関連する製品仕様を見直す必要が生じることもある。
 
  製品を製造又はサービス提供し、顧客に引渡した後にも、顧客の苦情(8.3項)、市場の不評(8.2.1項)のために製品仕様を見直す必要が生じ、また、適用法規制の改正(7.2.1 c)項)によっても、更に、対象顧客層や国、地域の変更、拡大を図る場合(7.2.1 b)項)にも、また、長期間を経て顧客のニーズや期待或いは市場の情勢に変化が起きそうな場合(8.2.1項)にも、既存の製品の製品仕様の見直し、変更が必要になってくる。
 
  これら各場合の製品仕様の変更の必要性については、それぞれの業務の責任者が必要を認識し、変更のための設計開発の着手を提議する。この設計開発の着手を提議する責任と手順は、新規の製品の設計開発の場合と共に、製品の設計開発活動の管理に関する手順の中に定められていなければならない。 この提議を受けて、製品仕様の変更のための活動を新たな設計開発活動と見做して、設計開発の計画を策定し(7.3.1項)、一連の手順に則って設計開発活動を行なう。この場合、設計開発活動は変更された製品仕様に関連する部分のみを対象とするだけでよいので、設計開発の計画は相応に簡略化できる。しかし、ある製品特性の改善のための変更が別の製品特性に悪影響を及ぼすことなどもよくあるので、計画ではこれを十分考慮したものでなければならない(2)
 
(5) 既存製品に対する配慮
  特定の製品仕様の改善した改訂製品が市場に出たことにより、旧型となった既存製品の顧客が新たな不便や不利益を被ることになるのは少なくない。 仕様変更の設計開発活動は、このような引渡し済みの製品に係わる顧客満足をも取り上げることが必要である。 例えば、仕様が変更された部品について現行製品のための交換、補給用の部品がいつまで確保できるのか、或いは、構造仕様が変更になった製品について現行製品の修理や保守の要員や技能が維持されるのか、パソコンOSの仕様改善のように現行版の有用性が先細りになってしまわないかなどは、現行製品の顧客の強い関心事である。 また、機能を向上した新製品に関しては顧客がそれと同じ機能へ現行製品を改善する サービスを期待することもある。 新旧の両製品が同じ場所で使用されるような場合には、例えば、操作レバー、スイッチやボタン の形式、位置、色に違いがあっては顧客の製品使用を混乱させる恐れがあり、或いは、新旧両形式で異なる交換部品を顧客が誤ることで事故を起こす可能性もあり得る。
 
  また、既存製品に何らかの問題があって製品仕様を変更する場合は、製造済みの製品や出荷済みの製品が同じ問題を出す可能性の有無や起こり得る問題の大きさを評価し、必要なら注意呼びかけや回収などの処置をとらなければならない(8.3項)。 法規制改正の場合は、改訂の適用についての定められた基準に沿って、製品仕様を変更し、旧製品に必要な処置をとらなければならない(7.2.1 c)項)。 しかし通常、これらを処理するのは設計開発活動以外の活動である。
 
 
3. 規格要求事項とその真意
(1) 設計・開発の変更を明確にし、記録を維持する   [第1節 第1文]
  「明確にする」の英原語はidentify であるから、「識別する」である。 「記録を維持する」には (4.2.4参照)が付されておらず、この「記録」は同項に定める「適合性と効果的業務実行の証拠」としての記録ではない。「記録」の定義に付された「記録は例えば トレーサビリティー(3.5.4項)を文書にするために使用される」#2の意味の記録であり、このため 94年版では「変更を文書化する(be documented)」#1と記述されていた。 そして、「設計・開発の変更」は上記2.(1)のように、「設計開発活動に関連する変更」という意味合いでの「設計開発活動の変更」で、実質的には「製品仕様の変更」である。
 
  英原文の意図は、「実施した設計開発活動の結果の製品仕様の変更を識別し、文書に記述しておく」ということである。 製品仕様の変更を実施した場合には、いつ、どれをどのように変更したのかを、製品仕様書、図面、模型、限度見本、評価試験報告書など当該製品の当該箇所の仕様を表す文書や記録に明示し、その変更が事後の必要に応じて識別できるようにしておかなければならない。これは、 使用上の混乱を避けるために文書について「変更の識別と現在の改訂版の識別(be identified)」が必要である(4.2.3 c)項)というのと同じ趣旨である。
 
(2) 変更に対して、レビュー、検証及び妥当性確認を適宜行う   [第1節 第2文(前半)]
  英原文$1のこの部分を直訳すると、「(実施された)変更は、必要なら レビューされ、検証され、妥当性確認されなければならない」である。 製品仕様の変更は、設計開発活動によって達成される。 この変更のための設計開発活動が効果的、効率的であることを確実にするためには、一般の設計開発活動の管理の手段及び要件(7.3.1〜7.3.7項)を適用することが必要である。 とりわけ、この設計開発活動の結果である変更された製品仕様(7.3.3項)については、目標を満たしたかどうかが検証され(7.3.5項)、顧客の使用環境に耐えられるかどうかの妥当性が検討され(7.3.6項)なければならない。 そして、設計開発活動結果はこれらの結果とデータ を含む諸情報を基に、体系的に レビュー(7.3.4項)されなければならない。 ただし、初めての設計開発活動ではないので、変更した点と関係ない活動や結果については、検証、妥当性確認、レビュー を相応に簡略化又は省略できる。
 
(3) 変更を実施する前に承認する   [第1節 第2文(後半)]
  「変更を実施する前」の英原文は、 before implementation である。 implementation は、一般に「公式に決定されたことを実施させ始める」(4)で、規格では「(決定や計画)に効力をもたせる、実行に移す」(6)である。 ここでは、設計開発活動の結果の(実施された)変更に効力を持たせ、実行に移すと言う意味であり、設計開発活動の結果の新製品仕様を組織として確定し、権威づけ、関係する業務に使用又は適用することである。 これには、適切であり、問題ないとする責任者による判断と決定に基づく承認が必要である。 この変更のための設計開発活動の結果に関する承認は、一般の設計開発活動の結果(7.3.3項)に関する「次の段階に進める前に承認を受ける」と同様の行為である。
 
(4) 設計・開発の変更のレビュー には、変更が製品を構成する要素及び既に引渡されている製品に及ぼす影響の評価を含める   [第1節 第3文]
  このJIS和訳「設計・開発の変更の レビュー」は、「設計開発活動に関連する変更」を レビュー することであり、上記3.(2)に規定されている レビュー のことである。 この レビュー には、通常の設計開発活動における レビュー の場合の問題の評価(7.3.4項)だけではなく、「変更が及ぼす影響」の評価をも含めなければならない。 これを規格執筆者のひとり(2)は、影響を評価して、必要なら処置をとることであると説明している。 設計開発活動に関連する変更の レビューは、製品の仕様変更のための設計開発活動が、当該製品に対する顧客のニーズと期待を満たすだけでなく、その仕様変更がもたらす悪い影響を防ぐことを確実にするためにも実施されなければならない。
 
  何に対する影響かについては、恐らくはDIS版の表現$3の影響と思われるが、多くの解説でJIS和訳と同じく、構成部品と引渡し済みの製品(7)(9)と受けとめられており、全体製品仕様と引渡し済みの製品(8)という受けとめもある。 この条文は2000年版で追加されたものであり、多くの解説書が新規要求事項として取り上げているが、その意味を説明する解説は見当たらない。
 
  Hoyle氏(3b)は、これが出荷済み製品への影響の評価に相当するとは言っていないが、安全や環境問題で設計変更した場合の出荷済み製品の回収や修理に言及している。 しかし、設計開発活動で製品仕様の一部を変更するということは、一部の構成部品又は要素を変更することであり、その変更を実現するためには関連する構成部品、要素の変更も必要になる。 このような性格の構成部品、要素の変更は、当該設計開発活動の結果そのものであるから、これらの適切性、合目的性の評価や判断は設計開発活動における一般の検証、妥当性確認、レビュー の対象である。 このような性格の構成部品、要素の変更を、目的の製品仕様の変更が及ぼした影響であるとして別途 レビュー を行うということは実務ではありえない。また、苦情や法規制改正への対応としての製品仕様の変更の場合に、出荷済み製品をどうするのかということは、当該製品の品質保証又は法令順守の責任者が設計開発活動の提議と共に判断することである。 このような見地からの出荷済み製品の処置の必要の評価や判断を設計開発活動における レビューの対象とすることも実務上はあり得ない。
 
  2000年版英文$2は「出荷済みの構成部品と製品」と読むことができ、つまり、新仕様に関連する構成部品と現行仕様の製品ということではなく、出荷済みの製品とその構成部品という意味に理解することができる。条文では、製品の特性への影響と、その製品の一部として出荷済みの個々の構成部品、要素への影響とが分けて表現されていると考えればよい。 製品仕様の変更のための設計開発活動において実施される レビュー は、実施した変更が出荷済みの製品とその構成部品に及ぼす影響を評価しなければならない。 この評価は、製品仕様を変更したことが出荷済みの製品の適切な使用や使い勝手に悪い影響を及ぼすことがないかどうかの評価であり、問題があれば必要な処置を決めなければならない。 この要求事項が2000年版で追加されたのは、94年版が不良品の出荷を防ぐことを狙いとしていたのに対して、2000年版が、継続して顧客に製品を買ってもらえるための顧客満足を狙いとするようになっているからであろう。
 
(5) 変更の レビュー の結果の記録及び必要な処置の記録を維持する   [第2節]
  変更のための設計開発活動に関する レビュー、検証、妥当性確認の記録の必要は、それぞれの条項7.3.4, 7.3.5, 7.3.6項に規定されている必要と同じである。 これに加えて実施した上記3.(4)の レビュー ととった処置についての記録も、7.3.4項と同様の理由で維持することが必要である。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9001:1994, 4.4.9; #2 ISO9000 3.7.6参考1.
 
引用英原文
$1 ISO9001, 7.3.7 第1節 第2文
  The changes shall be reviewed, verified and validated, as appropriate, and approved before implementation.
$2 ISO9001, 7.3.7 第1節 第3文
  The review of design and development changes shall include evaluation of the effect of the changes on
   constituent parts and product already delivered.
$3 DIS9001, 7.3.7 第1文
  This includes evaluation of the effect of the changes on constituent parts and delivered products.
 
引用文献 (英文献及び 文中の* 印は著者による翻訳)
(1) マイケルスワン(金子稔他訳):現代英語用法辞典、桐原書店、1985.7.10
(2) C.A.Cianfrani他: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001; p.110
(3) D.Hoyle: ISO9000 Quality systems Handbook,Butterworth-Heinemann,2001; a-p.442, b-p.448
(4) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(6) ISO/TC176: ISO9001/9004:2000の用語に関する指針、17 May 2001, N526R
(7) RC&Associates;ISO9001:2000 Compliance with New Requirements,Jan.2001; P.61
(8) J.Kanholm: ISO9000:2000 New Requirements 3rd Edition,AQA Co.; p.43
(9) ISO/TC176: ISO9001 for Small Businesses, ISO中央末ア局、2002; p.100
H20.3.23 
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