ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
7.2.3項   顧客との コミュニケーション 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その38>
35-01-38
7.2.3  顧客との コミュニケーション
[第1文]
        組織は、次の事項に関して顧客とのコミュニケーション を図るための効果的な方法を明確にし、実施すること。
[箇条書き]
a) 製品情報
 b) 引き合い、契約若しくは注文、又はそれらの変更
c) 苦情を含む顧客からのフィードバック

1. [7.2.3項]の概要
  顧客の製品に関するニーズと期待を把握し、顧客がそのニーズと期待を満たして製品を使用するためには、顧客の意向を受けとめ、必要な情報を顧客に伝える情報交換の活動が必要である。 本項は、情報交換活動を実行すべき3つの分野を規定している。
 
 
2. 顧客との コミュニケーション
(1) 製品に関する情報交換
  組織が供給する製品に所定の顧客満足を得ることができるかどうかは、組織が顧客の想いを正しく把握し、顧客が製品を正しく理解し、使用することができるかどうかによる。 これには、双方が製品について必要とする情報を相互に発信し、受け取ることができ、双方の想いや理解を一致させることができるような状況が必要である。 「コミュニケーション」は communication であり、これは情報を交換すること、又は、考えや意思の共有を図ることを意味する(1)。 規格では「情報交換」と定義される(2)
 
  94年版は、契約内容の確認#1の観点からの顧客の意向確認と、是正処置における顧客の苦情や不適合報告書の取り扱い#2に言及してはいたが、顧客との情報交換の必要を直接的に述べた条項や規定は存在しなかった。 これは、94年版が、顧客と合意の「契約又は注文要求事項」#1にほぼ相当する「規定要求事項」#3を満たす品質保証の活動の規格であったからであろう。 2000年版は、現在及び将来の顧客ニーズを理解し、それを満たす製品を供給して顧客の期待を越えるようにする取組み#4に関する規格であり、顧客との情報交換の必要が強調されている。 規格執筆者のひとり、C.A.Cianfrani氏ら(3)は、顧客との情報交換は94年版でも要求事項であったとし、しかし2000年版では、情報交換の範囲が拡がり、また、より具体的になったと説明している。別の規格執筆者、C.MacNee氏ら(4)は、「組織が顧客のニーズと期待を満たし、顧客満足を向上させる能力は、顧客との情報交換活動の有効性に影響される」と述べて、本条項の意義を説明している。
 
  同氏は、情報交換の活動の狙いとして、次の3つを挙げている(4)
   @ 顧客の必要を見出し、組織が提供できる製品を伝えること、
   A 製品の使用のための情報を提供すること、及び、
   B 引渡した製品に関する顧客の意見を把握すること、
 
  組織が行う具体的な情報交換の活動としては、例えば、製品広報活動、営業活動、顧客サービス活動、応札活動、注文受付け活動、及び、顧客からの使用方法照会対応活動、苦情処理活動がある。 また、製品引渡し活動、引渡し後のサービス活動などでも顧客との間の情報交換を伴う。 情報交換の場として顧客との定期的な会合がもたれ、非公式の会合や対話という形でも情報交換が行われる。 規格では、これらの情報交換活動は製品実現のプロセス(7.1 b)項)のひとつである。
 
(2) 顧客対応の活動
  顧客との情報交換活動は組織と顧客との接点で行われる。 顧客との接点で行われた結果であって、無形の製品は「サービス」#9である。 顧客との情報交換活動は、情報がやりとりされたというサービス のサービス提供活動とみなすことができる。 顧客はこのサービスに関して入手する情報に対するニーズと期待だけでなく、入手のしかた、つまり、迅速さ、説明のうまさ、言葉使い、態度など組織の応対の品質、つまり、受ける印象や感情などにもニーズや期待を持っている。 情報交換活動は、必要な情報がやりとりできたかどうかが大切であるが、やりとりが顧客にどのような印象や感情を抱かせたかも大切である。 前後関係からして本項の規定は、情報交換活動を製品実現プロセスのひとつとして扱っていると思われる。 しかし、顧客との間で行われる活動である以上、それに対する顧客の受けとめというものがあり、それが組織と組織の製品に関する顧客満足に影響することは避けられない。
 
  これは、事業活動における現実であり、現代 マーケット論の立場ででもある。 すなわち、佐藤知恭氏(5)によると、今日のマーケティング理論における顧客満足とは「提供された商品・サービス、さらに企業の理念などについて、顧客が自分自身の基準によって納得の得られるクオリィティと価値を見出すこと」であると考えられている。 顧客が感じるこのクオリィティと価値は、顧客評価価値とも呼ばれるが、これは、特に一般消費者の場合は、客観的、合理的な判断ではなく、主観的、感情的な好き嫌いで決められる。 例えば、これまでに使った他の製品の体験、広告による印象、電話での社員の応対、販売接点での応対態度、更に、新製品や不祥事など組織に関する報道などから、顧客が抱いた印象や感情の集積によって、顧客は取引先や製品を選択する。
 
  製品に関する情報交換活動において例えば、製品使用についての照会に対する組織の応答や体制に顧客が不満を覚えると、製品には問題がなくとも、次の機会には組織の製品を選ばない。 逆に、申立てた製品の苦情への組織の対応が、顧客の抱いた不満を解消させ、組織と製品への信頼を向上させることもある。 顧客との情報交換活動は、製品に関する顧客のニーズや期待を把握し、顧客のニーズや期待が満たされるよう製品が使われることを確実にするために行われるものであり、そのために効果的に行われることが必要であるが、その活動自身に関する顧客のニーズや期待に応え、顧客に良い印象を与えつつ行われることも必要である。 上記の2人の規格執筆者もその解説書では、情報交換活動自体の顧客満足について直接的には言及していない。 しかし、2000年版では顧客と対応し、顧客の意向に沿う業務を行うすべての部署が品質マネジメントシステムに含まれることになり、営業、販売、顧客サービス、代金回収などの要員も顧客満足に直接関係することになったとして、それら活動の主体である情報交換活動自体の顧客満足の重要性を指摘する規格理解(6)もある。
 
  規格の製品の概念では、例えば自動車という製品は、本体だけでなく、素材製品(冷却液)、ソフトウェア(使用説明書)、サービス(販売員による説明)から構成されるというように、大抵の事業の製品は複数の製品類型から構成されている#6。 この例では、顧客に供給する製品に関して交換された情報をその製品とは別の製品(ソフトウェア、サービス)としている。 自動車という製品の顧客満足には、交換された情報への顧客満足を含み、構成するすべての製品に顧客満足が必要である。 営業や応札、受注活動が製品実現活動と独立した存在であるような組織でも、情報交換活動はそれらサービス提供活動の重要な要素であり、それへの顧客の印象は製品供給の約束という サービス に対する顧客満足の一部となる。 情報交換活動をサービス提供活動とみなす場合は、組織は、このサービスへの顧客のニーズと期待を満たよう サービス仕様を決定し(7.2.1項)、これを満たすようにサービス実現の計画を行う(7.1項)。 多くの組織では、情報交換活動を別のサービス提供の活動と位置づける必要はないように思われるが、情報交換活動の顧客満足に及ぼす側面を管理しなければ、情報交換活動が製品への顧客不満足をもたらすことになりかねない。
 
 
2. 規格要求事項とその真意
(1) 顧客とのコミュニケーション を図るための効果的な方法を明確にし、実施する  [第1文]
  このJIS和訳の「効果的な方法」は、 effective arrangement である。 arrangement は、「何かを実現させるための計画又は準備」(1)であり、「手配、準備、手はず」(7)という意味である。 94年版の内部監査の目的の「計画されたとおりになっているか」#7、ISO14001の「計画された取り決め事項に適合しているか」#8のいずれの英原文も、 planned arrangements である。 2000年版(8.2.2項)では、「7.1参照」が付けられているのでJISは「個別製品の実現の計画に適合しているか」と和訳しているが、この英原文もplanned arrangementである。 つまり、規格では、あるプロセスを計画するとは、そのプロセスの有り様を決めて、いつでも実行できるように手はずを整えることである。 計画して整えた業務実行のための手はずが、 planned arrangement (計画された手はず)である。 計画された手はずとは、その業務実行の体制、枠組みのことであり、簡単に言えば、用意された業務実行の手順と資源のことである。 arrangementは「方法」ではなく、「手はず」の方が当を得た日本語表現になる。 また、「顧客とのコミュニケーション を図るための」の英原文は、for communicating with customers (顧客との情報交換するため) であり、「明確にする」は determine (決定する)である。 従って、この英原文は、「組織は、顧客と情報交換するための効果的な手はずを整え、顧客と情報交換を行うこと」という意味である。 他の条項の表現を借りるなら、情報交換活動を「計画し、実施すること」であり、情報交換活動の手順と資源を用意し、それを基に情報交換を行うことの意味である。
 
   組織が顧客の想いを正しく把握し、顧客が製品を正しく理解し、使用することができることを確実にするために、組織は a)〜c)項に関連する情報交換活動の手順と資源を確立し、顧客との情報交換を行わなければならない。 情報交換活動は、この目的を果たすよう効果的に行われるだけでなく、各情報交換活動に関する顧客のニーズと期待を満たすように行われなければならない。 製品に関するこれらの情報交換活動の良し悪しは、直接的に、また、組織の応対の良し悪しによる顧客の受けた印象や不利益によって間接的に、製品の顧客満足に影響を及ぼす。 a)〜c)項に関連する顧客との情報交換活動は、これらの両面で製品の顧客満足向上に資するよう、効果的に行われなければならない。
 
  a)〜c)項の情報交換活動で得られる製品と顧客のニーズと期待に関する情報は、現在の顧客満足度を測り、また、今後の顧客満足の確保のために組織がとるべき対応という観点で収集され(8.2.1項)、分析される(8.4 a)項)。
 
(2) 製品情報   [ a]項]
  組織は、製品情報に関係する情報交換活動の効果的な手はず或いは手順と資源を確立し、その活動を実行しなければならない。 この情報交換活動には、例えば、広告、カタログ供覧、メニュー表示、見本展示、店頭の製品説明、製品説明書や製品取扱い説明書の製品への添付、電話相談窓口での応答などがある。 不適切な、誤った情報交換は、例えば顧客が意に沿わない製品を買わされたり、誤った使用で事故を起こしたりすることにもつながる。 組織の発信する情報は、わかり易く、顧客の知りたいことに対して的確で、正確で、顧客に誤解されないような表現でなければならず、言い違い聞き違いは避けなければならない。 顧客に対応する組織の要員は、必要な情報と業務遂行力(6.2.1項)をもっていなければならない。 新規製品や製品の改善などにより製品情報が変更される場合の処置は、文書管理の手順(4.2.3項)に定められていなければならない。
 
(3) 引き合い、契約若しくは注文、又はそれらの変更   [ b]項]
  組織は、引き合い、契約若しくは注文、又はそれらの変更に関係する情報交換活動の効果的な手はず或いは手順と資源を確立し、その活動を実行しなければならない。組織は、顧客からの製品の引き合いや申し込みを受付ける部署を明確にし、手段を整備し、手順を確立し、それを組織の製品に興味を抱き又は購入を希望する顧客がわかるようにしておかなければならない。また、 一旦合意した注文や契約が変更される場合の受付けと対応の方法、手順、変更受付可否の基準が明確になっていることが必要である。対応する要員が顧客の意向を的確に把握し、また、間違いなく迅速に受注処理を進めるために、要員の業務遂行力(6.2.1項)や必要な情報やその他の資源を準備しなければならない。
 
(4) 苦情を含む顧客からのフィードバック   [ c]項]
  組織は、顧客及び顧客の製品使用に関係する情報を入手するための情報交換活動の効果的な手はず或いは手順と資源を確立し、その活動を実行しなければならない。 これには、苦情を受付け、対応し、原因と再発防止対策を説明することに関する手はずや体制、或いは、手順と資源が含まれていなければならない。 フィードバック (feedback)は、電子回路による機械の自動制御における信号処理法に付けられた用語(8)であるが、一般用語として「何か又は誰かの仕事の出来ばえ又は有用性に関する助言、批判又は情報」の意味(1)に使われている。
 
  顧客フィードバック (customer feedback)は、引渡され又は使用した製品に関する顧客の評価であり、これには、苦情申立てを含む個々の製品の自らのニーズと期待との比較、競合製品との比較、組織の変化するニーズとの比較、における評価がある。 顧客フィードバック は顧客が発信するものを受け取るだけでは十分ではない。 「顧客の苦情は、顧客満足が低いことの一般的な指標であるが、顧客の苦情がないことが必ずしも顧客満足度が高いことを意味するわけではない」のである#5。 顧客が情報を発信する機会には、引合いや注文申し込み、苦情申立て、製品使用報告書、品質会議などがあり、組織が情報を収集する活動には、製品使用相談窓口での受付、顧客調査、市場調査、顧客巡回の他、非公式の顧客と対話、或いは、販売店からの聴取という間接的な方法などがある。 組織が顧客フィードバック情報の収集に示す強い関心は、顧客の組織への信頼感と製品の顧客満足の醸成の促進につながる。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9001:1994, 4.3
#2 ISO9001:1994, 4.14.2
#3 ISO9001:1994, 4.2.1
#4 ISO9000, 2.1
#5 ISO9000, 3.1.4 参考1.
#6 ISO9000, 3.4.2 参考1.
#7 ISO9001:1994, 4.17
#8 ISO14001:2004, 4.5.5 a) 1)
#9 ISO9000, 3.4.2 参考.2
 
引用文献 (英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) S.Wehnmeier他: Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(2) ISO/TC176: ISO9001/9004:2000の用語に関する指針、N526R
(3) C.A.Cianfrani他: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001; p.89
(4) C.MacNee他: Transition to ISO9001:2000, BSI Publications,2001; p.34
(5) 佐藤知恭:顧客満足を超えるマーケティング、日本経済新聞社、1995.4.24; p.96-100
(6) Epsilon Tech. Services Ltd.: ISO9000:2000-new standard for quality, Customer satisfaction, www.epsilon-ltd.com
(7) 海野文男他: 実用英語大辞典、日刊アソシエーツ、1998.6.26
(8) Merriam-Webster’s Collegiate Dictionary, Merriam-Webster Inc
H20.1.31
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