ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
6.2.1 項  人的資源 一般 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その31>
35-01-31
 6.2  人的資源
 6.2.1 一般

[条文] 製品品質に影響がある仕事に従事する要員は、関連する教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量があること。
1.[6.2.1項]の趣旨
  本項は、経営資源のひとつである人的資源のマネジメントにおいて職務遂行力を指標とすべきことを明確にし、職務遂行力があることの判断基準及び対象となる要員の範囲を規定している。
 
 
2. 力量とは
(1) 職務遂行力
  「力量」の原英語は competence であり、「力量がある」は be competent である。一般辞書(1)では、前者は「何かを満足に、又は必要な程度に行う能力」、後者は「何かを満足に、又は必要な程度に行う専門性又は知識をもっている」と説明され、事業用語としては例えば「満足に仕事を行う能力」の意味(3)になる。すなわち「力量」とは「職務遂行力」のことである。「力量」とは通常、「人の能力の大きさの度合い」又は「人の能力の大きいこと」を意味(2)し、「力量がある」は優秀であることを意味するから、規格JIS和訳の「力量」はこれとは異なる意味である。
 
  規格はこの「力量」を「知識と技能を適用するための実証された能力$1」と定義#1している。この「技能」の原英語は skills であり、可算名詞の複数形としてのskills は「特定の能力又はある種類の能力」という意味(1)である。例えば management skills(管理能力), language skills(語学力) というように使われる。頭脳的な能力に関係する「知識」 と対照的な「技能」というよりは、どちらも包含する「専門性」という意味に解する方が適当である。また、「適用する」は apply であり、「特定の状況で機能させる」の意味(1)である。更に、ある人に職務遂行力があるかどうかは主観的な判断ではなく、事実によって明瞭に示されたものでなければならないということが JIS和訳「実証された」の原英語 demonstrated の意味(1)である。規格は、要員が業務を行うことを「当該の業務に知識や専門性を機能させる」ことと表現し、それを行う能力を「力量(competence)」と呼ぶ。要員に「力量がある」ことは何らかの事実によって示される必要がある。
 
(2) 人的資源の指標
  組織が品質マネジメントを効果的に行うためには資源、とりわけ、人的資源を用意しなければならない。品質マネジメントに関連する諸業務を担うのは人々である。人々には、担当業務を手順に則って行い、所定の結果を出すことが求められる。「力量」とは、手順に則り所定の結果を出すことの出来る能力であり、担当業務についてその能力があることを「力量がある」という。「力量がある」とは当該の職務遂行力を有することの意味である。また、規格では人々が分担する業務のことを、人々に与えられた「責任及び権限」(5.5.1項)とも表現するから、「力量」とは与えられた責任及び権限を全うする能力であるとも言うことができる。
 
  人々にそれぞれの必要な力量がなければ、担当の業務の手順は効果的に履行されず、所定の業務結果を所定の出来ばえで出すことはできない。組織の品質方針と品質目標で定めた狙いの顧客満足は、品質マネジメントの各業務がそれぞれの所定の出来ばえで、つまり、プロセスの品質目標を達成して、遂行されることによって実現するものであり、力量のない要員に業務を担当させることはすなわち、組織の方針や目標の実現を危うくする。品質マネジメントの効果的な実行に必要な人的資源の用意とは、単に諸業務に必要な人々の頭数を揃えることではなく、各業務を手順に則って実行して所定の出来ばえの結果を出すことができる人々を揃え、そのような職務を与えることである。「力量」すなわち職務遂行力は規格の人的資源の指標である。

(3) 力量の概念
  規格の「力量がある」には、業務の結果を首尾よく又は出来ばえよく出すことができるかどうかではない。「力量がある」とは、ある人がある業務(プロセス)を所定の手順に則って実行し、所定の業務結果(アウトプット)を出すことができることを指し、所定の業務結果を達成したかどうかは、その狙い(プロセスの品質目標)と許容範囲(合否判定基準)を満たしたかどうかである。この狙いと許容範囲は組織の品質マネジメントシステムの品質目標を最も効率的に達成するための個別業務の結果と出来ばえの許容範囲として定められたものであるから、狙い以上の出来ばえは組織には不必要であり、逆に人的資源の非効率な適用を意味する。或いは、すべての担当者が狙いを越える出来ばえが可能なら、狙いをその水準に上げて、他の業務の負荷の軽減を図るべきである。
 
  業務には、やさしい業務、難しい業務、或いは、軽度の業務結果、高度な業務結果が期待されるものなどがあり、知識主体、技能主体など性格の異なる業務があり、専門分野など種類の異なる業務もある。従って「力量」には、水準、性格、種類がある。要員の能力開発又は業務能力育成とは、要員に新たに水準、性格、種類の異なる「力量」を持たせ、或いは、「力量」の範囲を拡大させることである。各要員の有する「力量」は、履修した学校教育の水準や専門教科が基礎となり、組織が行う教育訓練によって高度化、拡大される。また、業務の実行の経験は一般にその業務に関する「力量」の高度化や関連業務の「力量」の習得に繋がる。新規採用者には軽度な「力量」しか必要としないやさしい業務を委ねるのが効率的である。高度な「力量」を必要とする難しい業務を行う要員は一般に優秀な要員と見做される。失敗の許されない、又は、組織に重要な結果が期待される業務には、これら優秀な要員を当てるのが普通である。
 
  定年退職や異動により特定の要員がいなくなることは、組織や職場から該当する「力量」が消失することを意味する。新事業の開始、新技術や新設備の導入の際には一般に組織内には必要な「力量」が存在しないから、その「力量」の手配をしなければならない。また、新規採用や職場異動で新業務を担当しようとする要員には一般にその業務の「力量がない」。特定の業務で所定の結果が得られないことが多くある場合は、担当要員に「力量がない」ことが疑われる。組織の品質方針や品質目標が達成できない、苦情が多発する、不良が繰返し再発するなどの状況が続くような場合は、組織全体にある種類の「力量がない」或いは特定の「力量」が不足しているのが原因であるかもしれない。
 
  「力量」は一般に、特定の担当業務名や業務範囲又は作業名や職場名で表現されたり、特定の業務機能と役職で表現されたり、或いは、知識や専門性ないし専門分野で表現されたり、又は、技法、手法、暗黙知、公的資格、学校教育の水準等を示して表現されたりする。
 
 
3.力量と資格
(1) 「力量がある」と「資格がある」との違い
  「力量がある(competent)」 に概ね対応する94年版の用語は、「資格がある#7」「資格認定された#8」と和訳されて用いられている qualified である。qualifiedは辞書では、「何かを行う実用的な知識や専門性をもっている」(1)と、competent と同じような意味である。規格の定義#5でも「資格がある」は「規定要求事項を満たす能力があることが実証されている状態$2」であり、「規定要求事項を満たす能力」を特定の業務に必要な能力の意味とすると、「資格がある」も職務遂行力があることを意味し、この能力のあることは「力量がある」と同じく「実証されている」ことが必要である。 このように、JIS和訳「力量がある」と「資格がある」とは、英語の点でほとんど同じ意味であり、規格の定義の点でも担当職務を遂行する能力がある、または、与えられた責任及び権限を果たす能力があるという意味であり、そのことは何らかの事実の証明、証拠によって示されなければならないということまで同じである。
 
  但し、qualified には特定の仕事のための「知識や専門性をもっている」という意味の他に、「特定の仕事をするのに必要な試験に合格した、教育訓練を終了した、又は、経験がある」という意味(1)もある。JIS和訳の「資格」「資格認定」は、こちらの意味から来ているものと推察される。そこで規格の英文を注意深く読むと、「力量がある」が「能力が現在ある(demonstrated ability$1)」のに対して「資格がある」が「能力のあることが事実で示されたことがある(have been demonstrated$2)」であるという違いを見つけることができる。すなわち、業務遂行力のあることは、どちらの場合も何らかの事実で証明、あるいは、示されなければならないのであるが、「力量がある」が「現在、能力がある」という証明であるのに対して、「資格がある」が「ある時期に能力があった」又は「能力を持ち続けている」という証明であるということになる。
 
  「ある時期に能力があった」証明であれば、その時点では「力量がある」ことの証明ではあるが、時間の経過と共に「力量がある」かどうかは一般に怪しくなる。このような「資格がある」は「力量がある」ことの証明となり得るが、「資格がある」は常には「力量がある」ことを示すとは限らないのである。すなわち、規格の「資格がある」と「力量がある」との違いは、例えば、ペーパードライバーの運転能力、経験の少ない医師による高度手術の能力、或いは、地上管理職から現役復帰した航空機操縦士の操縦能力などを考えるとわかりやすい。
 
  JIS和訳の「資格」「資格認定」も qualified(資格がある)を証明する方法のひとつとして広く社会で認められた形式である。事業活動の実務においても資格認定は特定の能力のあることを証明するためによく使用される。これには、特定の実技や知識の教育訓練を実施し、試験等によって確認して必要な業務能力を有することを資格認定証や免許証、受講証などによって証明するものであり、特定の業務に法律で義務づけられた資格、免許や講習受講の制度があり、また、組織独自に資格認定制度も設けることもある。資格認定が「ある時期に能力があった」証明にとどまらず、「能力を持ち続けている」証明となるように、多くの資格認定制度は資格維持や更新の仕組みを採り入れている。この仕組みでは、資格保有者に対して一定期間内の一定の業務実績のあること、又は、定期的な再受験や再受講の義務などの資格維持の条件が設けられ、定期的にこの条件への適合が評価されることになる。
 
  qualified とcompetent の違いに関して、J.Ketol氏ら(7)は「『力量がある』と『資格がある』は同義語ではあるが、ある人が『資格がある』としても、必ずしもその業務を実行する『力量がある』とは限らない」と説明し、D.Hoyle氏ら(8)は「ある人がその業務を実行するための適切な学問を修め、職業訓練を受け、専門性をもっていれば『資格がある』と認められる。その人が所定の業務結果を達成する能力のあることを証明すれば『力量がある』と見做される」と説明している。
 
 
4.力量と教育訓練との関係
  組織が要員に対して実施する教育訓練は、必要な職務遂行力の醸成が目的である。規格はこれを、「力量がある」ことの判断基準を「教育、教育訓練、専門性、及び、経験*」とし(6.2.1項)、「要員に必要な力量を決定*」し(6.2.2 a)項)、「これら力量の必要を満たす教育訓練を行う*」こと(同 b) 項)と明記して確認している。94年版でも職務遂行力があることを「資格がある」と表現しながらも、教育訓練の項#6で「それぞれに与えられた業務に従事する者については、適切な教育、教育訓練及び/又は経験の必要ないずれかに基づいて*3」職務遂行力がなければならないと規定して、教育訓練を職務遂行力醸成手段と位置づけている。
 
 
5. 規格の表現における不統一
(1) 職務遂行力に関して
  必要な職務遂行力のあることを94年版は4.18項でqualified(資格がある), 2000年版では 6.2.1項でcompetent(力量がある)と異なった用語で表現している。しかし、94年版でも competence という用語は存在し#2、JISは「適性」と和訳している。この competence は、qualified(資格がある)に関連する説明の中で「特定の業務に関する能力」というような意味で使われているから、ここでは competence(力量) は、qualified(資格がある)であることを証明するひとつの指標として扱われている。更に、2000年版でも職務遂行力を示すのに qualification が使われている(7.4.2, 7.5.2項)。これをJISでは「適格性確認」と和訳しているが、英語からも定義#3からも、「資格がある」と同じ概念の職務遂行力を意味していることは明らかである。しかし、職務遂行力に関して6.2項では「力量がある」でなければならず、7.4.2, 7.5.2項では「資格がある」でなければならないというような理由も考えられないから、2000年版での両者の併存が意図的なものとは思えない。
 
  海外文献では例えば、「資格がある」「力量がある」を含み94年版の4.18項と2000年版の6.2.1項の条文の違いを、要求事項の変更、つまり、意図の変化とは見做さない解説(11)(12)もあり、94年版4.18項を用語 competent を用いて説明する解説(13)もある。このことは、両英単語の本質的な意味に相違はないと受けとめる英語解釈があり得ることを窺わせる。しかし、用語 qualified は過去の事実の証明という意味を含蓄していることから、JIS和訳が資格云々の意味に誤解したように、この用語で職務遂行力を表現すると規格の意図に誤解を招く恐れなしとしない。規格の意図をより明瞭に表現する用語としては competent の方が適切である。 なお、competent は、JIS和訳は「能力」であったが、1996年発行のISO14001の初版で職務遂行力を表す言葉として既に採用されている。これら規格表現の不一致は、職務遂行力というものをどう表現するかに関して規格執筆者の考えが確立する過程における表現上の混乱と考えてよいと思われる。規格の趣旨、従って規格の意図における職務遂行力は、2000年版の「力量」の概念で捉えることが適切である。
 
(2) 教育訓練に関して
  供給者が不良品を出荷しないようにするための業務実行の要件を定めたいわゆる品質保証規格は、1959年制定の米国軍需品の品質保証規格MIL-Q9858Aに始まるとされているが、ここには人的資源に関する要件は規定されていない。元来欧米の大量生産は工程を単純な作業の多段階に細分し、作業者の技量を不要にすることに重点が置かれてきた(3-a)と言われる。1979年に作成された英国の品質保証規格BS5750で初めて、教育訓練の要件が織り込まれた(3-b)が、これには日本製品との品質の差の原因に彼我の作業者の技量の違いがあるという欧米の認識が背景となっていることは想像に難くない。
 
  これが1987年のISO9001に引き継がれたのであるが、初版では教育訓練の対象さえ検証活動の要員に限定するかの記述#9になっており、1994年版で初めて全員に職務遂行力とそのための教育訓練の必要が明確にされた#8。しかし他方では同じ項で「力量ニーズ」ではなく「教育訓練のニーズを明確にする」こととし、経営資源の項#7では人的資源に関する要件を「教育訓練された要員*2」とし、また、設計開発活動を「資格がある要員*3」に割り当てるという規定#8もあり、表現に一貫性が欠けている。日本では特にJIS和訳で qualified を「資格認定」とするなどを初め英文解釈の問題から、規格の意図の職務遂行力と教育訓練に関する理解に混乱がもたらされた。表現の一貫性に関しては、2000年版でも用語 qualification がなお存在するし、「認識」が「力量」マネジメントのPDCAサイクルの枠外で唐突に規定されている(6.2.2 d)項)などの問題が残っている。
 
  これに関連して規格執筆者のひとり C.MacNee氏ら(15)は、2000年版の用語「人的資源」は「新しい要求事項というより新しい用語である」とし、「94年版が重視していた教育訓練ニーズの特定が2000年版では力量要求事項の特定に置き換えられた」と表現の適切化であることを示唆している。そして、「教育訓練ニーズは力量要求事項(ニーズ)から生じるものである」と2000年版の表現の方が適切である理由に触れている。職務遂行力との関係を含めて教育訓練に関する規格の表現のこれまでの変化も、品質マネジメントの効果的な実行のための人的資源の在り方と表現に関する規格執筆者の理解の整理の過程に伴うものであると考えてよい。
 
 
6.規格要求事項の意図 −品質マネジメントに関連する人的資源の要件と範囲
(1) 要員は力量があること    [条文 部分-1]
   品質マネジメントシステムの業務を担うすべての人々が、その与えられた業務を品質方針及びそれに基づく手順に従って資源を使用して実行することで、各業務に所定の結果を出すことが出来、組織全体として所定の顧客満足を実現することができる。「力量」とは当該業務を所定の手順に則って実行し所定の結果を出すことができる能力のことであり、職務遂行力のことである。職務遂行力とは委ねられた責任及び権限(5.5.1項)を全うできる能力のこととも表現できる。要員がその業務に必要な職務遂行力がある状態を「力量がある」と言う。本項により、人的資源の指標が要員の人数ではなく、必要な職務遂行力があるかどうかであることが明確にされている。
 
(2) 力量は教育、訓練、技能及び経験を根拠として判断すること    [条文 部分-2]
  要員がある業務に「力量がある」ことは、教育、訓練、技能及び経験で判断できる。ここに、それぞれの原英語は、education, training, skills, experience である。 education と training はよく似た意味の英語であるが、両者を並べて比較すると前者が学校での基礎及び学問に係わる教育、後者が職業に係わる実務教育であり、また、前者が知識や専門性の教育、後者が肉体的な訓練という、それぞれの色彩が強い。規格では training を「特定の職業上の技量に関する教えを提供又は受ける行為、活動」と説明(4)している。規格の意図は、education が学校教育、training が 職業訓練であり、組織内で行われる教育訓練を意味するものと思われる。組織に採用される前に受けた職業訓練学校で受けた教育や組織から派遣されて教育研究機関で受けた知識や学問に係わる教育、或いは、資格取得を目的とするものなど研修機関で受けた職業訓練等々をどちらに分類するかというのは問題ではない。ここでは学校教育や職業訓練の実績が要員の力量判断の基準となるということが指摘されているだけである。
 
  次に skills であるが、JISは「技能」と和訳しているが、上記の「力量」の定義#1における skills と同じく、特定の職業能力又は専門性という意味に受け取るのがよいと思われる。特定業務分野の経験が永く、又は顕著な業績を挙げてその分野の業務の専門家として認められているとか、特定の業務や活動の講習を受け、又は試験に合格して公的な資格や免許を保有しているとか、或いは、特定の関連知識、技法、手法、暗黙知に優れていると認められる場合などの、そのような専門的な能力を指す。 最後に、experience はJIS和訳の通り「経験」であり、組織の内外における要員の業務経験、職歴を意味する。
 
  「力量がある」ことは、履修した学校教育、組織の実施した教育訓練、特定の専門性及び業務経験で判断でき、また、判断してよい。このことは、「力量」の定義#1が「力量がある」ことをJIS和訳「実証された」として事実によって客観的に判断されるべきと規定していることに関係する。すなわち、各要員がある業務に対する職務遂行力があることは、学校教育、教育訓練、専門性、職歴の4種の実績や事実で明瞭に示されなければならない。この4種の各事実は例えば特定の専門性のあることは職歴で証明され、職歴は特定職場の業務に係わる教育訓練と一体であるなど、相互に独立した事実とは限らない。どちらの事実で証明するのかというようなことも意味はない。また、職務遂行力の有無を判断するのに、当該業務を要素又は要素作業に分解して、それぞれに業務能力を評価するなど詳細な、体系的な判断基準や判断方法は実務的ではない。要員の4種の実績や事実を総合的に評価して判断することで十分である。なぜなら、日本の多くの組織ではこのような判断基準に基づく要員の配置や能力開発が行われてきた。「力量がある」や「教育訓練」と正反対にあり、規格が戒めるのは、採用した人にいきなり業務を与え又は命じるというようなことである。
 
(3) 製品品質に影響がある仕事に従事する要員は、力量があること    [条文 部分-3]
  製品はプロセス(業務)の結果であり#10、事業目的の製品・サービスだけでなく、品質マネジメントシステムのすべての業務の結果もそれぞれ製品である。2000年版の「品質」は「特性が要求事項を満たす程度」#11であり、品質マネジメントシステムの要求事項は顧客要求事項つまり顧客のニーズと期待の意味であるから、2000年版では品質とは顧客満足度のことである(14)。組織の事業活動の何についても顧客が自らのニーズと期待の観点で何らかの受けとめを意識した場合は、その受けとめ方が「製品品質」である。製品品質とは、事業製品・サービスの品質だけを指すのではなく、品質マネジメントのすべての業務の結果を顧客がどのように受けとめたかということである。製品品質に影響がある仕事とは、このような業務のことであるから、品質マネジメントに関係するすべての業務を意味する。
 
  当然、事業活動の業務を直接担う要員のみならず、それら業務の効果的な実行の管理に当たる トップマネジメントを初めとする管理者も含まれる。94年版では力量は教育訓練のニーズに置き換えられて規定されていたが、その教育訓練を必要とする要員を、経営者及び中間管理者、品質関係技術者、及び第一線管理者と作業者の3つのグループに分けて説明することにより、これを明確にしていた#12
 
  なお、本項では職務遂行力の対象が品質マネジメントに関係する業務と要員に限定されており、規格の文脈からはその職務遂行力も各要員の担当業務の内の品質マネジメントに係わる業務に関するものに限定される。これは、規格が品質マネジメントシステムの要件を定めたものであるからに過ぎない。実際には、要員にある業務を委ねるのは、品質マネジメントに関係する業務か否かによらず当該の業務が当該要員によって実行され必要な結果が確実に出ることを期待した上のことである。業務の品質マネジメントに関する部分だけが間違いなく実行されればよいということではないはずである。組織のマネジメントの実務においては、どのような業務であれ、当該要員が当該業務に対する職務遂行力を有することを確実にしなければならない。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9000;3.9.12 (2000年版は監査の用語としての定義だが、2006年版で品質に関する用語 3.1.6に移された)
#2 ISO9004-1:1994; 5.2.4
#3 ISO9000; 3.8.6, ISO8402:1994; 2.13
#5 ISO8402:1994; 2.14
#6 ISO9001:1994; 4.1.2.2
#7 ISO9001:1994; 4.4.2
#8 ISO9001:1994; 4.18
#9 ISO9001:1987; 4.1.2.2
#10 ISO9000; 3.4.2
#11 ISO9000; 3.1.1
#12 ISO9004-1:1994; 18.1.2〜18.1.4
 
原英文
$1 ISO9000:2006 3.1.6 competence demonstrated ability to apply knowledge and slills
$2 ISO8402:1994 2.14 qualified status given to an entity when the capability of fulfilling specified requirements has been demonstrated
 
著者による和訳
*1 ISO9001:1994;4.18 それぞれに与えられた業務に従事する者については、適切な教育、教育訓練及び/又は経験の必要ないずれかに基づいてその職務遂行力のあることが証明されていなければならない。(Personnel performing specific assigned tasks shall be qualified on the basis of appropriate education, training and/or experience, as required.) =(JIS和訳) 特に定められた業務に従事する者については、必要に応じて適切な教育・訓練履歴及び/又は経験に基づいて資格認定すること。
*2 ISO9001:1994;4.1.2.2 供給者は、マネジメント活動、作業活動及び内部品質監査などの検証活動に、教育訓練された要員の割当てを含み、適切な資源を用意しなければならない。(The supplier shall provide adequate resources, including the assignment of trained personnel(see 4.18), for management, performance of work and verification activities including internal quality audits.) =(JIS和訳)供給者は、管理、業務の実行及び内部品質監査を含む検証活動に対して、訓練された要員(4.18参照)の割当てなど必要な経営資源を提供すること。
*3 ISO9001:1994;4.4.2 資格がある要員(qualified personnel) = 有資格者(JIS和訳)
 
引用文献 (英文献及び文中の*印は著者による翻訳)
(1) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(2) 新村 出: 広辞苑、岩波書店、S61.10.6
(3) B.A.Will: A White Paper, Paroxys,LLC, 2001; a-p.1, b-p.4
(4) ISO/TC176: ISO9001/9004:2000の用語に関する指針、N526R
(5) ISO/TC176: Transition planning Guidance for ISO9001:2000, N474R2; p.25
(6) C.A.Cianfrani: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001;p.65
(7) J.Ketola他: ISO9000:2000 in a Nutshell、Paton Press、2000; p.74
(8) D.Hoyle他: Transition to ISO9001:2000, Transition Support, Jan.2001; p.16
(11) RC&Associates;ISO9001:2000 Compliance with New Requirements,Jan.2001; P.48
(12) J.Kanholm: ISO9000:2000 New Requirements 3rd Edition,AQA Co.; p.32
(13) L.R.Beaumont: The Standard Companion, ISO Easy,1996;p.29
(14) ISO/TC176: ISO9000ファミリー改訂版のコミュニケーション及びマーケティングに関する推奨事項、日本規格協会ホームページ,2001.1
(15) C.MacNee他: Transition to ISO9001:2000, BSI Publications,2001; p.28
H19.9.25 
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