ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
力量の明確化とは "職務明細"の作成のことか?
 (ISO9001/ISO14001)
要求事項 自問自答 (6)
−やっぱり変だ 審査の視点!−
33-01-06
<審査の視点>
ISO9001 2000年版では 「力量」の概念が持ち込まれ、「要員に必要な力量を明確にすること」(6.2.2 a)項)との要求事項が定められている。
この要求事項については、「各人の業務遂行のためにどのような力量が必要であるかを明らかにすること」であるとの解釈が広まっている。
多くの組織で、作業や職場毎の"職務明細"(いわゆる "job description")、ないし、要素作業明細を表にあらわしている。製造業の例では、ある係の業務を、準備作業、材料の入庫、出庫、△△の取付け、◇◇の設定、○○機械の運転、伝票発行等々に細かく分けている。
そして、要員ひとりひとりについて、列挙された要素作業毎に力量の水準を、"指導が必要"から"一人でできる"、"他人を指導できる"までの5段階程度に格付けするような手続きが行なわれていることが多い。

 
<自問: 疑問>
規格の「力量を明確にする」とは、 "どのような力量かあるかを明らかにする"という意味か。
力量は、職務明細的にその要素作業にまで分割して詳細に表現しなくてはならないのか。
力量には、"水準"があるのか
「必要な力量」「力量を明確にする」とは規格の文脈において何を意味するのか?
そもそも、6.2章に関する規格の意図は何なのだろうか
<関連する疑問>
原英文ではどのような表現となっているか
94年版の4.18項(教育・訓練)と何が変わったのか



< 力量」の定義 と 要求事項 >
力量とは、組織内のそれぞれの業務についての業務遂行能力のことである。力量があるかどうかは、学校教育の専門性(「教育」)、組織で行なった教育訓練(「教育・訓練」)、特別な技能(「技能」)、職務経験(「経験」)によって判断される。組織は「必要な力量を明確にし」、「必要な力量がもてるように教育・訓練し、又は他の処置をとる」ようにしなければならない。
規格は「力量(competence)」を「明確に示された、知識と技能を使用する能力*(*印は筆者訳、以下同じ)」(JIS9000 3.9.12項)と定義しており、「力量がある(competent)」とはそのような能力があるという意味である。(関連情報はこちら)
「力量がある」とは "その仕事を行なうことができる"という意味であり、業務遂行能力があるという意味である。業務遂行能力のない人に業務を命じても、作業ミスや事故を発生させ、あるいは不良品を作ってしまいかねない。
力量があるかどうかは、「教育、教育訓練*、技能及び経験」を根拠として判断すればよい。(6.2.1項)
この「教育」とは学校教育で履修した専門性などであり、「技能」とは免許で裏付けられているなどの特殊な業務の能力を意味すると考えられる。経験は職務経験のことであり、その組織あるいは在籍した他の組織でどのような業務を行なってきたかに関するものである。
「教育訓練*」は、JISのこの項では「訓練」となっているが、原英語は「training」であり、「training」は 6.2章の他の条文では「教育・訓練」と訳されている。「教育・訓練」とは、座学中心の教育、研修の他、技能訓練、OJTなど組織内部で実施される教育訓練のことである。
そして、組織は「必要な力量を明確にし」(6.2.2 a)項)、力量が不足している場合は、それらの「必要な力量がもてるように教育・訓練し、又は他の処置をとる」(同 b)項)ようにしなければならない。


<考察:  原英文についての検討>
<「明確にする」とは>
「明確にする」は日本語では何か不確かなことや不明なことを「はっきりさせる」「明らかにする」という意味である。このような場合、規格では「「define」が使われる。ここの「明確にする」の原英語は、「決める」「定める」「決定する」を意味する「determine」である。 従って、英原文に忠実に解釈するならば、「必要な力量を明確にする」とは、どのような力量が必要かの事実を "明らかにする"のではなく、そのような事実の下に「必要な力量を決定する」という意味になる。
日本語の「明確にする」は通常、何か不確かなことや不明なことを「はっきりさせる」「明らかにする」という意味である。
このような「明らかにする」は、規格でしばしば用いられている。例えば、「・・に必要な管理を明らかにした手順書*」(4.2.4項)や「責任と権限が明らかにされている」(5.5.1項)、「製品要求事項が明らかになっている」」(7.2.2 a)項)である。 これらの場合の「明らかにする」の英原文は、「define」である。ただし、JISの上記条文では「明らかにする」ではなく、「規定する」「定める」と翻訳されている。
いずれにせよ、6.2.2 a)項を "どのような力量が必要であるかを明確にする" という意味にとって、職務明細を作成するという対応は、この項の意図を「必要な力量を明らかにする」と解釈した結果であるように思われる。
しかし、6.2.2 a)項の「必要な力量を明確にする」の場合の英原語は、「define」ではなく「determine」である。
「determine」は、「決める」「定める」「決定する」の意味である。 JIS9001では、主意によって「明確にする」「決定する」「定める」と翻訳し分けたと説明(JIS9001: 解説 3.2 g))されており、6.2.2項の場合は「明確にする」が充てられた。翻訳の意図はともあれ、この項の「明確にする」は日本語の通例の「事実を明らかにする」の意味ではなく、「事実の下に決定する」の意味である。
英原文に従えば、「明確にする」とは、"何が必要かを明らかにする"のではなく、"何が必要かを決定する"という意味である。
<「要員に必要な」とは >
「要員」は集合名詞たる「personel」であるから、要員のそれぞれという意味ではない。「要員に必要な」とは、「組織、あるいは、その職場に必要な」という意味である。
「要員に必要な力量」の「要員」は「personnel」という集合名詞であるから、個々の人(individual)ではなく、「職員」「人員」の意味である。例えば日本の人事部は Personnel Department である。
従って、「要員(personel) に必要な」という表現は、「個々の人のそれぞれに必要という意味にはならない。


<考察:  94年版と2000年版との比較による検討>
<94年版と2000年版の要求事項の違い>
「必要な力量を明確にする」を規定する 6.2.2 a)項の条文を 94年版の 4.18章(教育・訓練)と比較すると、ほとんど同じである。違いは、94年版の「教育・訓練のニーズ(training needs)」が2000年版で「必要な力量(necessary competence)」に置き換わったことだけである。これは、規格の記述が手段ではなく意図するところを直接規定する表現になったことになった典型であり、教育訓練は力量の確保が目的であるから、"教育訓練せよ"でなく"力量を確保せよ"に変わったものと考えられる。「ニーズ」と「必要な」は英文では「needs」と「necessary」であるから同じ意味であり、「必要な力量」は "力量ニーズ"のことである。「明確にする」は両版とも「明らかにする」ではなく、「特定する」「決定する」である。94年版との対比における「必要な力量を明確にする」は、「力量ニーズを決定する」 の意味となる。
94年版には「教育・訓練」についての要求事項(4.18項)が定められていたが、教育訓練の目的については明確には規定していなかった。
これが 2000年版では、「教育・訓練」の章はなくなり、「力量」という言葉が登場した。そして、教育訓練は人々に"力量"をもたせるひとつの手段(6.2.2 b)項)であることが、要求事項の中で明確になった。
しかし、両版の関係する条文を比較すると、次のように表現の違いはわずかである。
つまり、日本語では 94年版の「教育・訓練のニーズ(training needs)」が2000年版では「必要な力量(necessary competence)」に置き換わっただけであり、また、「明確にする」の英原語が、「identify」から「determine」に変わっただけである。
2000年版では、規格の記述に関するISO/IEC指令 Part2 に則って、方法を規定するのでなく規格の意図するところを直接規定する表現になったことが知られている。その典型が本件であり、教育訓練は力量の確保が目的であるから、"教育訓練せよ"でなく"力量を確保せよ"に置き換えられたのである。
それに、needs と necessary とは名詞と形容詞という違いだけで同じ言葉である。従って「必要な力量」といっても、94年版の表現に従えば「力量ニーズ」ということである。
「identify」という英語は翻訳に適さないという理由で 2000年版では多くの場合に「determine」が用いられている。 両者に意味上の大きな違いはないから、ここは実質的に変化はないと考えられる。「明確にする」は、94年版も2000年版も「define」の「明らかにする」ではなく、「特定する」「決定する」の意味である。
94年版との関連で考えると、「必要な力量」は「力量ニーズ」であり、それを「明確にする」とは、「力量ニーズを決定する」ことであり、換言すると「不足する力量を見極める」ことである。
前記の英原語の意味とを勘案すると、「要員に必要な力量を明確にする」というのは、組織、あるいは、その職場に必要な力量、つまり、不足している力量にどのようなものがあるかを検討し、決定することである。
<「教育訓練ニーズ」について >
実は 94年版でも、要員の"適格性"という概念で「力量」と同じような業務遂行能力を念頭において「教育訓練のニーズ」(4.18章)を取り扱っていた。そして、与えようとする業務に対する"適格性"のない新入社員や配置異動する社員に対する教育訓練を特に注意すべき「教育訓練ニーズ」として挙げている。 94年版でも、過去の経験などに「適格性」を判断し、「適格でない」人々に教育訓練を実施するという考え方であった。 2000年版では「適格である」が「力量がある」に変わったが、教育訓練の意味あいは 基本的に変化していないと考えてよい。従って、94年版の「教育・訓練のニーズを明確にする」(4.18項)は、「適格性のニーズを明確にする」と同じ意味である。94年版の「教育・訓練のニーズ」と2000年版の「力量のニーズ」とは同じ意図を別の角度から表現されたもので、実質的に同じ要求事項であると考えることができる。
94年版でも「教育訓練(training)」との関係の中で、要員の「適格化*(qualification)」「選定(selection)」について触れられている(JISZ9904 18.1.1項)。
この「qualification(適格化*)」は、「訓練、技能、能力によって、特定の目的にふさわしくすること」「competentであること  又は  適切であることを宣言すること*」(Merriam-Webster's Collegiate Dictionary)の意味であるから、2000年版の「力量」と同じような概念である。  94年版規格で「qualification」が「資格認定」を意味していた箇所もあるが、「qualification」=「資格認定」の意味ではない。
JISZ99004 18項(要員)では、これら教育訓練の実施に関して、「新入社員及び新しい業務につく要員」に対して特に注意するよう述べられている。
従って 94年版でも、要員の「適格性」の確保が教育訓練の目的であり、過去の職務経験などに基づいて「適格」かどうかを判断し、「適格でない」人々に教育訓練を実施するという考え方に立っていたことになる。
2000年版では「適格である」が「力量がある」に変わったが、教育訓練の意味あいは 94年版から基本的に変化していないと考えてよい。従って、94年版の「教育・訓練のニーズを明確にする」(4.18項)は、「適格性のニーズを明確にする」と同じ意味である。
94年版の「教育訓練のニーズ」と2000年版の「必要な力量」つまり 「力量ニーズ」とは、両規格の同じ意図を別の角度から表現したものであると言える。 94年版が「教育・訓練のニーズを明確にする」(4.18項)で意図していたことと同じことが、2000年版要求事項「必要な力量を明確にする」で意図されていると考えてよい。。


< 考察: 規格の論理に基づく検討 >
<「必要な力量」の意味 >
JISQ9004 6.2.2.1項(力量)は、「必要な力量」に関連して「組織の効果的で効率的な事業遂行に必要な力量が使用可能であることを確実にしなければならない*」と説明している。事業の遂行には、適切な業務遂行能力、つまり、力量が不可欠である。「必要な力量」とは組織の事業の遂行のために "必要な"力量のことである。規格は6.1項で、品質マネジメントにおける必要な力量の範囲を a),b)項として限定している。
JISQ9004 6.2.2.1項(力量)は、「必要な力量」に関連して「組織の効果的で効率的な事業遂行に必要な力量が使用可能であることを確実にしなければならない*」と説明している。
そして、組織がこの必要な力量を確保する方法として、次のような趣旨が述べられている。
@ このためには、保有している力量を将来を含めた力量ニーズとを比較、分析することが大切である。
A この力量ニーズの分析には、組織の将来構想のために必要となる力量、予想される人員の入れ代わりのために引き継ぐ必要のある力量、設備や装置、工程の変更によって必要となる新たな力量、などを考慮することが大切である。
このような記述から、「必要な力量」とは組織の事業の効果的で効率的な遂行のために"必要"な力量のことであると考えることができる。
規格 6.1項は、品質マネジメントにおける必要な力量の範囲を、a) 品質マネジメントシステムの実施、維持、改善 及び b) 顧客満足の向上 のためと限定している。
< 6.2章 (人的資源) の意味 >
6章(資源の運用管理)は「資源マネジメント」の意味である。 組織に必要な業務遂行能力をもった要員を確保していないと、事業を効果的、効率的に遂行することはできない。 6.2章(人的資源)は、必要な力量に係わる人々を確保することに関して組織を指揮、管理する"人的資源のマネジメント"について規定している。組織は、事業の狙いや状況と現状の力量を勘案して、事業遂行に必要な力量を決定し、不足する力量に対して「教育訓練又はその他の処置」を計画し実行しなければならない。目標の力量が得られたかどうかを確認することが「有効性の確認」であり、このようなPDCAの活動の核となるのが、マネジメントレビューでの「資源の必要性」に関するトップマネジメントの「決定と処置」である。「必要な力量を明確にする」とは、このような"人的資源マネジメント"のPDCAの一環のAに相当する活動である。
6章は JISでは「資源の運用管理」であるが、英原語では「resource management」であるから「資源マネジメント」である。「品質マネジメント(quality management)」の「品質に関して組織を指揮し、管理する体系的活動*」という定義(JISQ9000 3.2.8項)に従えば、「資源に関して組織を指揮し、管理する体系的活動*」である。
マネジメントは別の言葉で表現すると、事業運営の課題を抽出し、取り組むべき事項について「方針及び目標を定め、その目標を達成する」(JISQ9000 3.2.2) するようPDCAを廻す継続的改善の活動である(関連情報はこちら)。
6.2章(人的資源)は、"人的資源のマネジメント"について規定している。組織に適切な力量がなければ組織は、事業を効果的、効率的に遂行することができないから、組織は必要な力量に係わる人々を確保することに関するマネジメントを行なわなければならない。規格は品質マネジメントの中に人的資源マネジメントの一部を織り込むことを求めている。
規格が規定する"人的資源マネジメント"は、組織の事業の狙いや状況と現状の力量を勘案して、そのような状況で「要員は力量があること」(6.2.1項)を確実にするための、次のようなPDCAの活動である。
@ どのような力量が必要かを判断する(6.2.2 a)項)
A 不足する力量に対して「教育訓練又はその他の処置」を計画し実行する(同 b)項)
B 目標の力量が得られたかどうかを監視、測定して確認する(同 c)項)
マネジメントレビューは、"人的資源マネジメント"のPDCAの核である。マネジメントレビューの結果、トップマネジメントが下す「資源の必要性に関する決定及び処置」(5.6.3 c)項)は、6.6.2 a)項の「必要な力量を明確にする」に繋がる。
「必要な力量を明確にする」とは、このような"人的資源マネジメント"のPDCAの一環のAに相当する活動である。教育・訓練の計画がP、その実施がD、「有効性の確認」がCである。
6.2.1項は品質マネジメントの要求事項であるから「製品品質に影響がある仕事に従事する要員」に対してのみ「力量がある」ことが必要であるとしている。しかし、すべての業務についてそれぞれの力量を有する要員を確保しなければならないのは言うまでもない。


< 自 答 >
<「要員に必要な力量を明確にする」とは>
「力量」とは、組織内のそれぞれの業務についての業務遂行能力のことであり、要員に必要な力量」とは、事業の遂行のために組織、あるいは、その職場に "必要な”力量のことである。これを「明確にする」とは、事業の遂行のためにどのような力量が必要か、何が不足しているかを評価して見極め、決定することである。
「力量」とは、組織内のそれぞれの業務についての業務遂行能力のことである。規格の意図の「力量」には水準はなく、「ある」か「ない」かの判断である。力量があるかどうかは、教育(学校教育の専門性)、組織で行なった教育訓練(教育・訓練)、特別な技能、職務経験(経験)によって判断すればよい。
英原語の意味において「要員に必要な力量を明確にする」というのは、組織、あるいは、その職場に必要な力量にどのようなものがあるかを検討し、決定することである。
94年版との対比における「必要な力量」は 「力量ニーズ」のことである。そして、「必要な力量を明確にする」は、「力量ニーズを決定する」 の意味である。
94年版の「教育・訓練のニーズを明確にする」と2000年版の「必要な力量を明確にする」とは同じ意図を別の角度から表現したもので、実質的に同じ要求事項である。
規格の意図における「必要な力量」とは組織の事業の遂行のために  "必要な”力量のことである。
組織は、事業の効果的、効率的な遂行のために必要な力量を常にもっているようにしておかなければならない。何らかの力量が不足して事業遂行に支障がでることを避けるために、 「事業に"必要な”力量を評価して決定する」ことが「要員に必要な力量を明確にする」ことの意味である。
どのような角度から検討しても、個々人の業務の構成要素作業を職務明細的に表にするなどして「明らかにする」ことは、規格の「要員に必要な力量を明確にする」にはあたらない。
<人的資源のマネジメント>
6.2章は、組織に必要な業務遂行能力をもった要員を確保するための「人的資源マネジメント」の規定であり、