ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
統合マネジメントシステムは
規格の意図か? 組織の利益か?

 (ISO9001/ISO14001)
要求事項 自問自答 (5)
−やっぱり変だ 審査の視点!−
33-01-05
<審査の視点>
最近、"統合マネジメントシステム"に関する発表、報告が雑誌やウェブサイトを賑わしている。
審査機関も、審査費用低減を掲げた"統合審査"を広報している。この場合、"統合マニュアル"の作成が条件となっている。
これは、ISO9001とISO14001の両シマネジメントシステムをひとつのマネジメントシステムに"統合"することを謳い、両規格のマネジメントシステムを認証取得した組織のシステム運用負荷の軽減が目的とされている。
しかし、説かれる"統合"の実体は、両マネジメントシステムに共通の文書をひとつにするという"結合"である。

 
<自 問>
<疑問>
ISO9001とISO14001の両マネジメントシステムを"統合"あるいは"結合"するのは、規格や規格作成者の意図か。
品質と環境のマネジメントをひとつのシステムとすることは、組織の現実の実務に適うのか。
性格も技術分野、担い手も大きく異なるマネジメントシステムをひとつのものとすることで、組織は実務上の利益を得るのか。
実際上、使用者の異なる両マニュアルの内容を1冊のマニュアルに記述することに、どんな利益があるのか。
<関連する疑問>
規格用語の「マネジメント」「マネジメントシステム」とは組織の実務の何を指すのか。
マネジメントシステムの"統合"とは組織の実務にとって何を意味するのか。
規格は"統合"について何を語っているのか。何を意図しているのか。



<考察: マネジメントシステムとか何か>
<マネジメントとは>
組織を運営管理する活動のこと
マネジメントとは、規格では「組織を指揮し管理する体系的活動と定義(JISQ9000: 3.2.6)されており、JISQ9001では「運営管理」活動とも訳されている。
組織の実務の観点からすると、組織の存立の目的である事業活動(作業活動と呼ばれる)を効率的、効果的なものとするための管理の活動(経営管理活動と呼ばれる)のことである。
<マネジメントシステムとは>
組織を運営管理するための業務(プロセス)の体系のこと。規格では、運営管理のプロセス、あるいは、必要な要素の有機的集合体として捉えられている。
システムは system であり、これは「相互に結びつけられ、又は、一緒に機能する、もの、又は、装置の集まり」(Oxford Advanced Learner's Dictionary)という意味であり、規格では「相互に関係づけられ、相互に作用し合う一連の諸要素」と定義(JISQ9000: 3.2.1)されている。
マネジメントシステムとは運営管理活動のシステムであるから、組織を運営管理するための業務(規格用語では「プロセス」)の体系のことである。プロセスアプローチを強調するJISQ9001ではこれを、"諸プロセスのシステム"(0.2)と、システムを諸プロセスの有機的集合体と捉えている。JISQ14001では、マネジメントのための「組織の体制、計画活動、責任、技量、手順、プロセス及び資源」(3.5)と定義されている。


<考察: 全体マネジメントシステムと個別マネジメントシステム>
<全体マネジメントシステムとは>
どの組織にもマネジメントシステムが存在する。規格は組織の全体のマネジメントシステムのことを全体マネジメントシステムと呼ぶ。
意識されていない、あるいは、文書化され体系化されていないことはあっても、凡そすべての組織にはマネジメントが存在する。規格も「すべての組織は既にマネジメントの構造を有している」(ISO中央事務局:謎解きの旅、ISO9001と小企業)とこれを認めている。そして、このような マネジメントシステム のことを「既存のマネジメントシステム(existing management system)」(JISQ14001: 序文、JISQ9001: 0.4)と呼んでいる。
そして、この場合の「既存のマネジメントシステム」とは、組織全体のマネジメントシステムのことを指しており、規格はこれを「組織のマネジメントシステム(management system of an organization, organization's management system)」(JISQ9000: 3.2.2 参考、同: 2.11)、 又は、「全体マネジメントシステム(overall management system)」(JISQ14001: A.1、ISO8402: 3.2)と呼んでいる。
<個別マネジメントシステム>
ISO9001,ISO14001の両マネジメントシステムは、全体マネジメントシステムの一部であり、"品質"、"環境"という特定の目的、観点で組織を運営管理するための個別マネジメントシステムである。
組織が事業活動の目的を追求し成功を納めるためには、原価や品質だけでなくいろんな観点から事業活動を運営管理することが必要である。組織が大きくなり事業活動の範囲が拡がり、また競争が激化し社会情勢が変化するにつれ、運営管理の観点は拡大する。組織は運営管理の責任とそれを担当する部門を分割してそれぞれへの専門性を強めるようになる。これが各種の個別マネジメントである。
重要な個別マネジメントに対してはしばしば、全体マネジメントを司るトップマネジメントに代わって日常活動を統御する責任者や実行のための機能部門を置くことになる。
規格は、「品質マネジメントシステムは(中略)組織のマネジメントシステムの一部である」(JISQ9000: 2.11)と明記し、環境マネジメントシステムとは「全体的なマネジメントシステムの一部で」(JISQ14001: 3.5)あると定義している。
ISOマネジメントシステム規格の概念において、"品質"、"環境"の両マネジメントシステムとも組織の全体マネジメントシステムの一部たる、個別マネジメントシステムである。規格はこの他に個別マネジメントシステムとして、労働安全衛生、財務、リスク、操業の各マネジメントシステムを例示している。
トップマネジメントが全体マネジメントを統轄するのに対して、特定のマネジメントに責任を与えられた者が規格では「○○マネジメント代行者(management representative)」であり、JISはこれを「管理責任者」と翻訳している。



<考察:
システムを"統合"することの意味>
<"統合"の意味>
規格用語の"統合"は integrate であり、一体化、あるいは、融合することの意。
統合マネジメントシステムの根拠を「Generic Management System」に求める考えが一部にあるが、規格の「統合」の原英語は integrate である。海外でも 品質・環境統合マネジメントシステム を標榜する向きがあるが、この場合も integrated management system である。
integrate は、「機能する、あるいは、一様化された統一体、を構成すること、に整合させること、に混ざり合うこと」(Merriam-Webster)であるから、「統合する」よりも「一体化する」「融合させる」の方が意味を明確に表すことができる。
<規格が意図するシステム"統合"とは>
規格の意図における"統合(integrate)"は、ISO9001,ISO14001両マネジメントシステムを全体マネジメントシステムと一体化・融合させること。
規格は、「組織のマネジメントシステム(全体マネジメントシステム)の様々な部分は、品質マネジメントシステムと共に、共通の要素を用いて単一のマネジメントシステムに融合(integrate)することができる」(JISQ9000: 2.11)、あるいは、「環境に関する事項を全体マネジメントシステムに一体化させること(integration)は、(中略)環境マネジメントシステムの効果的実施に寄与することができる」(JISQ14001: A.1)と、品質、環境両マネジメントシステムを全体マネジメントシステムと一体化させることの大切さを規定している。
ISO文書でも、両規格が共通の基礎の上に築かれているので「両マネジメントシステムは組織の既存のマネジメントシステムに容易に一体化されるに違いない」(TC207:Articles and News-Dec.1995)と記されている。
また、既存のマネジメントシステムは「品質マネジメントシステムを構築する土台となるべきである」(ISO中央事務局:謎解きの旅、ISO9001 and small business)とか、「組織は、環境マネジメントシステムの基礎として(中略)既存のマネジメントシステムを使用できる」(JISQ14001: 0.2)と、ISO9001やISO14001のマネジメントシステムが既存の全体マネジメントシステムと融合した形で構築されるべきことを明確にしている。


<考察:
"統合"されたマネジメントシステム>
<マネジメントの実態>
実際の業務は個別マネジメントシステム横断的、包括的に行なわれている。つまり、"統合"されている。
組織の日常の各業務は個別マネジメント毎に行なわれている訳ではない。例えば、ひとつの業務が各マネジメントの目的別に異なった手順で行なわれているというようなことはない。各業務の手順は、関係する各マネジメントの必要を総合した組織全体として最適のものとして定められている。
もちろん特定のマネジメントの下でしか必要でない手順もあるが、基本的にはどの手順もどのマネジメントシステムに属するというものではなく、その業務(プロセス)の手順なのである。手順書も同様に、どのマネジメントシステムに属する文書というものではなく、組織全体の文書である。
<規格の概念における"統合された"状態>
各個別マネジメントシステムがそれぞれに必要な全体マネジメントシステムの要素を全体マネジメントシステムと共有し、渾然一体となっている。
個別マネジメントシステムが全体マネジメントシステムと「be integrated」(JISでは"統合される"と翻訳している) しているとは、個別マネジメントシステムが、他の個別マネジメントシステムや全体マネジメントシステムから独立した存在ではなく、他の個別マネジメントシステムと共に全体マネジメントシステムとして一体化ないし融合している、ということである。
この場合、いくつかの個別マネジメントシステムが単に集まって全体マネジメントシステムを構成しているのではなく、各個別マネジメントシステムがそれぞれに必要な全体マネジメントシステムの要素( ISO9001の場合はプロセス、ISO14001の場合は組織の体制、計画活動、責任、技量、手順、プロセス及び資源*)を全体マネジメントシステムと共有している。すべての個別マネジメントシステムと全体マネジメントシステムの要素がすべて渾然一体となっている。
個別マネジメントシステム間の違いは、全体マネジメントシステムと共有する要素とそれらをどのように用いるかの違いである。
<マニュアルの意義>