ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
環境影響を生じる可能性のある作業と
原因となりうる作業 は区別が必要か ?

 (ISO14001; 4.4.2)
要求事項 自問自答 (4)
−やっぱり変だ 審査の視点!−
33-01-04
<審査の視点>
★ 環境影響を生じる可能性のある作業と原因となりうる作業は区別しなければならない
   規格 4.4.2項(訓練、自覚及び能力)には、「環境に著しい影響を生じる可能性のある作業」と「著しい環境影響の原因となりうる作業」という2種類の表現があるが、組織の環境に係わる作業をこの2種類に区別することを求める解説書が多い。これらでは、両者の違いは起きる可能性の強さであるとし、前者は実際に起きる可能性があり、後者はほとんど起きないが理論的にはあり得るという程度の可能性であると説明している。
★ 訓練を受けることと、能力をもつこと
  多くの解説書はまた、作業を2種類に区別した後に、前者の作業を行なう要員には教育訓練を受けさせ、後者の作業にはその作業を行なうための特別な能力を有する要員を配置することを求めている。


<自 問>
<疑問>
★「可能性のある」と「なりうる」とはどのように違うのだろうか? 起こる可能性の程度のちがいとして、実際問題としてどこに境界線を引くのか。
★ 訓練とは本来、要員の能力向上のために行なうものだが、能力に関係ない訓練とはどんなものなのか?  何のために訓練しなければならないのか?


<関連する疑問>
★ 解釈の根拠に原英語の単語、"may" と "can" が 起きる可能性の強さのちがいを現すものとして説明されているが、正しい英語理解であろうか?  
★ 規格用語上では"may" と "can" はどのように使い分けることになっているのか?
★ 規格における「能力がある」とは、どういう意味か?
★ 規格における「訓練」は何を意味するのか?
★ 作業を2種類に区別することが要求事項とすれば、その必要性、境界について規格はどこに明確にしているのか?


<考 察: 「可能性のある」と「なりうる」の違い >
<英語の解釈:「可能性のある」と「なりうる」>
★ 規格の原英文では、「可能性のある」は「・・all personnel whose work may create・・」、「なりうる」は「・・the tasks which can cause ・・」である。つまり、「may」と「can」の違いである。
★ オックスフォード英語用語辞典(マイケル・スワン著:桐原書店)によると、英語の用法では、"may","might" は可能性について述べる場合に使われ、"might" は "may" より可能性が少ないことを意味する。一方、 "can" は "may","might"よりも一般的な又は理論的な可能性について言う場合に使われ、"may","might"のように何かが実際に起こるであろうとか、起こりつつある見込みを言う場合には使われない。つまり、"may" と "can" は性格の異なる言葉であり、両語の違いを「起きる可能性」の程度の違いとするのは、正しい英語解釈ではない。


<規格の用法: "may" と "can" >
★ ISO9000,ISO14050のいずれにも、この両語の定義は定められていないが、ISO9000に関するTC176の指針文書("用語の指針"、N526R)で、両語が定義されている。ただし、この文書のこの部分は ISO Directives Part3:1997,Table E.4 が参照されているので、この定義はISOの全規格に共通と考えられる。
★ これによると "can" は、「〜することができる(be able to)、「〜の可能性がある(there is a possibility)」、「〜できる可能性がある(it is possible to)」である。
★ "may" は、「〜が認められる(is permitted)」、「〜が許される(is allowed)」、「さしつかえない(is permissible)」である。
★ そして、"can" が規格使用者の能力や規格使用者にとっての可能性を意味するのに対して、"may"は規格が許可するという意味に重点が置かれている、と両語の性格の違いが注記されている。
★ この指針によると、"may" を「可能性のある」と訳するのは正しくない。しかし、文脈から 4.4.2項の "may" が許可の意味で用いられているとも考えられない。 従って、4.4.2項の "can"も"may" は、これら定義にこだわらずに、両者とも単純に「可能性」の意味で用いられているのであり、両語が意識して使い分けられているのではないと考えるのが自然である。


<規格の取り扱う環境影響の種類>
★ 4.4.2項で環境影響を「可能性のある(may)」と「なりうる(can)」の2種類に区別しているとされているが、規格は 4.3.1項でその取り扱う環境影響について、「・・著しい環境影響をもつか、または、もちうる環境側面を決定するために・・」と、「もつ(have)」と「もちうる(can have)」の2種類であることを明確に規定しているから、両項で分類が異なるということになる。
★ 4.3.1項の分類が規格の骨格をなす概念であるが、この分類に従うと4.4.2項の環境影響はいずれも4.3.1項の「もちうる」に属する。しかしこうなると、「現にもっている」環境影響に関係する要員には訓練や"能力"がいらないということになる。
★ そのためか、諸解説では「可能性のある」に「もつ」が含まれるとし、「なりうる」はそれらよりずっと起きる可能性が低いものと区別している。しかし、業務を例示して区別を示してはいるものの、この境界がどこなのか合理的な説明はない。また、この考えでは「もつ」「可能性のある」の対局は「なりうる」「まず起きない」「絶対に起きない」であるから、「能力ある要員」の配置を「なりうる」や「起きない」環境影響の方に求めながら、「現に起きている環境影響」には求めないということになり、この説明も合理性を欠く。
★ 規格の取り扱う環境影響は「もつ」と「もちうる」である。それらを「可能性のある」と「なりうる」に分類する必要性については規格の説明はない。諸解説には両者の境界についての合理的説明がないし、区別しなければならない合理的な理由は提示されていない。


<規格 4.4.2項の文章の構造>
★ 4.4.2項は、3つの節(段落)から成り立っている。
* 第1節・・訓練のニーズを明確にするべきことと、要員が訓練を受けるべきことを規定している。
* 第2節・・要員が自覚すべき事項 a)〜d)を挙げ、自覚させる手順を確立すべきことを規定している。
* 第3節・・要員が「能力ある」べきことと、その判断の基準を規定している。   
★ この3つの節の内容を相互に比較すると、3つの節は同格ではなく、第1節が全体感を表現しており、第2、第3節は第1節を詳細に示すものとなっていることがわかる。すなわち、
* 第1節・・全員に必要に応じて何らかの訓練を受けさせなければならないということ
* 第2節・・必要な訓練のひとつが、要員に自覚させるための訓練であること
* 第3節・・もうひとつの必要な訓練が、仕事ができる「能力」をもたせる訓練であること  
★ そして、"may”は第1節、"can" は第3節に記述されているそれぞれの訓練に関係して、その文章に使われている。もしも同じ節で異なった2種類の訓練が規定されていて、それぞれの訓練に関して"may”と "can" が用いられているのなら、"may”と "can"に異なった意味が持たせられていると解釈した方がよいかもしれないが、そうではない。
★ 品質マネジメントシステム(ISO9000)の訓練の対象が「製品品質に影響がある仕事に従事する要員」であるように、著しい環境影響を管理する環境マネジメントシステムでは訓練の対象は4.3.1項の表現を借りれば「著しい環境影響をもつか、もちうる作業を行なう要員」ということになる。「環境影響・・」は枕詞のようなものであって、第1節と第3節で"may”と "can"、"work" と "tasks" と表現が異なっても特別な意図はないと考えることができる。実際、この種の用語や表現の違いは規格の所々に見られる。


<考 察: 「能力がある」と「訓練」>
<英語の解釈: 能力がある>
★ 能力とは
  「能力」とは、「物事をなし得る力。はたらき」であるので直接的には「優秀」に結びつかないが、「能力がある」はしばしば「優秀」という意味で用いられる。
★ 規格の「能力をもつ」とは
   JISQ14001の「能力をもつ」の原英語は、「competent」であり、これは ISO9001 の2000年版(6.2)にも登場し、JISQ9001では「力量がある」と翻訳されている。
★ 英語「competent」とは
   「competent」は「適切な」とか「不可欠の又は適切な、能力又は品質を備えている」という意味であり、「能力をもつ」とは、"その仕事にふさわしい"とか "その仕事をする能力がある"という意味であって、"優秀な人"、"能力のある人"に仕事をさせるという意味ではない。(関連情報:「力量(JISQ9000)と能力(JISQ14000)」)
★ 諸解説では、これを専門的な知識、技術、資格をもつことと説明しているが、日本語の「能力がある」の意味からの解釈であって、英語の「competent」の意味とは相いれない。


<規格の意図する訓練の意義>
★ 規格の定義
   TC176文書("用語の指針"、N526R)では、訓練(training)を、「特定の技能、専門性、業務など、に関する又はための、指導を行なう又は受ける、行為又はプロセス」と定義している。
★ 訓練の目的
  訓練は、規格では学校教育(education)ではなく組織が行なう教育訓練を意味していると解せられる。組織内教育訓練は組織が要員の能力向上のために実施するものであるから、定義の用語を用いて表現するとると訓練の目的は要員に「特定の技能、専門性、業務など」を習得させることである。


<規格における訓練と能力の関係>
★ 規格は、4.4.2項で「教育、訓練、及び/又は、訓練に基づいて、能力があること」(筆者の和訳)と、訓練が "能力をもたせる" ためであることを明確にしている。訓練を受けて要員はその仕事に関して「能力がある」状態になる。ISO9001の94年版では教育訓練が要求事項であったが、2000年版では「能力("力量"と和訳されている)があること」が要求事項になり、「必要な力量がもてるように教育・訓練すること」との別の要求事項と合わせて、規格における訓練の意義が明確になった。
★ 規格では訓練と「能力がある」とは結びついた概念である。
★ "能力"の向上を目指す訳でもない単なる訓練と 特定の"能力をもたせる" ための訓練と、訓練を2種類に分ける考えは規格の論理には存在しない。また、ただ訓練するだけというのは営利企業ではあり得ない。


<考 察: まとめ>
<"可能性がある"(may)と"なりうる"(can)>

★ "may" と "can" とに、起こる可能性の強さの違いの意味をもたせることは、英語の用法上も規格上の用法の点からも正しくない。
★ 規格は環境影響を「もつ」と「もちうる」の2種類に分類して要求事項を定めており、「可能性のある」と「なりうる」の2種類の分類の必要性の根拠がなく、この分類は実務上境界の線引きの困難さから合理的ではない。
★ 4.4.2項の文章構造は3つの節(段落)から成り、訓練の全体感を規定する第1節の環境影響("may"が使われている)と"能力"をもたせるための訓練を規定する第3節の環境影響("can")を、2種類の環境影響だとする解釈は、条項全体の文脈から正しいとは思われない。
★ 4.4.2項の2種類の環境影響に関する要員はいずれも「環境マネジメントシステムに関係する要員」の意味であって、"may" と "can" の使い分けに然したる意味はないと考えることができる。 

 
<訓練と能力>
★ 「能力がある」とは「competent」の和訳であり、特別な能力があるとか優秀であるとかではなく、その仕事ができるという意味である。
★ 「能力がある」を特別な能力や資格所有に対応させる考えは、英語の用法からも規格の論理の上からも正しくない。
★ ISO9000:2000の「力量がある」も同じであるが、「competent」に関する規格の意図は「どんな仕事にも、その仕事を行なう知識や能力がある人を割り当てないと、効果的に仕事が行なわれない」ということを指摘することにある。
★ 訓練の目的は要員に "能力をもたせる" ためであり、「能力がある」ことは訓練を履修したことで判断される。訓練を受けても必要事項を習得したとは限らないから、ISO9001 2000年版では「教育・訓練の有効性を評価する」ように定めている。
★ 従事する仕事によっては、ただ訓練するだけでよいとの解釈は、規格の意図する訓練の意義から適切ではなく、営利企業に役に立つものとは思えない。


<自 答>
★ 規格は「可能性のある(may)」と「なりうる(cann)」の2種類の環境影響を想定している訳ではない。どちらも「環境マネジメントシステムに関係する」という意味である。 "may"と"can"、"work"と"tasks"と異なった単語が使われていることには特別な意味はない。
★ 規格の「能力がある」とは優秀かどうかでなく、要員が担当する仕事を遂行することができるかどうか、その仕事にふさわしいかどうかの意味である。
★ そして規格は、環境マネジメントシステムに関係するすべての要員は、その仕事の「能力がある」だけでなく、組織の活動に対するその仕事の大切さを自覚、認識して仕事に取り組むことが必要である、と規定している。★ 規格は 4.4.2項の第1節で、環境マネジメントシステムに関係するすべての要員に、その仕事を遂行するための必要な力を持たせ、かつ、その仕事の大切さを自覚させるために、教育訓練を受けさせるべきことを規定している。
★ そして、第2節で要員が自覚すべき事項を規定し、第3節で要員が「能力がる」かどうかの判断基準を規定している。
★ 「能力がある」かどうかは、学校教育履修状況や職務経験と共に組織内の教育訓練による必要な力の習得の実績で判断せよ、というのが第3節の趣旨である。
H15.7.13 
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