ISO9001/ISO14001
コンサルティング・研修


解説
    実務の視点    規格要求事項の解釈
このセクションでは、ISOマネジメントシステム規格(ISO9001/ISO14001)の要求事項を
実務の視点で、様々な角度から読み解き、解説します。
目  次
ISO9001
2008年版(追補)
改訂の要点
英語で読み解く
ISO9000/14000
要求事項自問自答
やっぱり変だ
審査の視点!
正論・異論・珍説
総まとめ
実務の視点による
ISO9001:2000
の解説
システム運用
の実務

-定説の誤謬-
ISO14001
2004年版 改定
の要点
ISO9001
2000年版改定
の要点
システム運用の実務   − 定説の誤謬 −
ISO9001/ISO14001規格のマネジメントシステムを効果的に運用する上で
問題のある解釈について検討して、
規格の意図に沿った、組織のマネジメント実務に照らして正しい、運用方法を示します。
(No.1〜41は、"我田引水"に書いたものをこちらに移載したものです)
目 次
<最新号>
45. すべての内部監査不適合に是正処置必要−強制されるJIS和訳条文解釈(H19.5.6)
 
45. すべての内部監査不適合に是正処置必要−認証審査が強制するJIS和訳条文解釈
44. ”有益な環境側面”の誤謬−ISO14001導入で負う環境責任とは
43. “OK”や“レ”は 検査の記録として適切か−考慮すべき種々の要素
42. スキル評価表と力量の明確化  −無意味な形式
41. 是正処置の効果の事後確認  −実務を無視した解釈
40. 米国産牛肉の輸入全面停止は防げた! −ISO時事寸評(番外編-2)
39. 毎日実施するマネジメント・レビュー   −誤訳と誤解
31. パソコン修理ミス −時事問題でISOを考える(番外編)
30. 経営者に対する内部監査は必要か?
15. 内部監査員は部課長以上であることが必須

45. すべての内部監査不適合に是正処置必要−強制されるJIS和訳条文解釈
 日本では、内部監査で発見された不適合のすべてに是正処置をとらなければならないとする規格解釈が一般的である。しかし監査の規格ISO19001は、監査員は収集した「監査証拠」を「監査基準」に対して「適合又は不適合」の評価をし、場合により「改善の余地がある点*」を指摘してもよいと規定するだけである。最終会議の目的に「該当する場合には、被監査側の是正処置計画作成期限を承諾すること*」を挙げているが、これもすべての不適合に是正処置の実施が必要と読むことはできない。 また、ISO9001/14001両規格とも内部監査を含み発生した不適合に対する是正処置のあり方を規定しているが、問題の重要性に応じたものとする必要を明確にしており、不適合のすべてに是正処置を実施しなければならないとは書かれていない。実際にも発生した不良品や異常のすべてに是正処置がとられている訳ではないし、認証審査もこの状況を是認している。
 
  それにもかかわらず、内部監査だけは“不適合=是正処置”という解釈が広く鵜呑みにされているのは、第一に、認証審査がすべての不適合に是正処置を要求するという実態があり、第二に、ISO9001の内部監査のJIS和訳条文に縛られていることに起因する。すなわち、94年版の規定は「監査で明らかになった不備について、時宜を得た是正処置を取ること」、2000年版は「発見された不適合及びその原因を除去するために遅滞なく処置がとられること」となっており、“発見された不備、不適合については是正処置を取らねばならない”と読むことも可能である。実際、この条文の故に認証審査ではすべての不適合に是正処置をしなければ不適合となる。
 
  内部監査は、組織の隅々まで目の届かないトップマネジメントが各部門の業務遂行を管理するための手段であり、諸業務が方針に則って確立され、実行されているかどうかの実態と問題点を把握し、顧客の離反や利害関係者の支持の喪失など経営に打撃となる問題の顕在化を防ぐことを目的として実施される。しかし現実には、内部監査で発見された問題は“不適合”と“改善事項”又は“観察事項”に分類し、“不適合”なら是正処置が必要であり、“改善事項”は不適合ではないからその取扱いは被監査側の自由に委ねられる。そして、是正処置を実施する被監査側の立場を慮って、“不適合”の件数を絞り、他の多数の不適合を“改善事項”とする操作が慣例となっている。経営の方針や狙いに反し、逸脱するような業務に目をつむるなら内部監査の意味がない。“経営に役立つ内部監査を”というような本質を離れた議論が出て来ざるを得ないほどに、ほとんどの組織の内部監査が形骸化し、認証審査に合格するための必要条件としての形式に堕しているのは、“不適合=是正処置”という解釈に自縄自縛となっているからである。
 
  ISO19001の監査では、個々の「監査証拠」の「適合又は不適合」の評価は「監査所見」であり、監査チームはこれを総合して監査の目的に照らして判断して「監査結論」を出すことが必要である。規格の内部監査の目的は関連業務の方針、目標への適合性の検証であり、「監査結論」は諸業務の実行状況が品質又は環境マネジメントの狙いの実現に支障があるのか、狙いを逸脱する問題が発生する危険があるのかに関する判断である。問題なしとの「監査結論」が時に、「監査所見」で不適合と判定した特定の事象の修正と是正処置を必要条件とすることはあり得る。規格の内部監査の是正処置は、この「監査結論」の中の不適合に関係する是正処置のことである。
 
  内部監査の“不適合=是正処置”という解釈は内部監査の本質にもとるが、現実にはISO9001条文を根拠とする縛りが存在する。但し、この縛りはJIS和訳の生んだ幻であり、2008年版ISO9001によって消える可能性が強い。すなわち、原英文を読むと、条文の意図は“不適合に是正処置をとる”ことではなく、“是正処置は速やかに実施する”ことである。そのような不適合は放置すると経営に打撃となる問題が顕在化する危険があるから、「速やかに」実施されなければならないのである。英文に忠実に和訳されればもう少しわかり易くなっていたはずだ。そして、誤解を招く表現の改善を主目的とする2008年改訂のDIS版では「必要なすべての是正処置が遅滞なくとられる」と記述が変更される。
 
  認証審査は規格要求事項に準拠することが必要であり、規格条文にない事項を強制することはできないから、2008年版の認証審査では「監査結論」として是正処置が必要と判断された不適合以外に是正処置の実施を強制されることはない。内部監査員は晴れて、組織の利益のために「監査証拠」を評価し、不適合は不適合とすることができる。代わりに内部監査員には、不適合の発生の背景とその影響の深刻さに対する洞察力が求められる。そして、例えば不祥事や重大クレームの抑止が組織の方針であるなら、これが発生した場合には関係する内部監査の「監査所見」や「監査結論」との関係が評価され、内部監査の有効性が問われることになる。内部監査はお遊びでも認証審査のための形式でもなく、内部監査員には厳しいが、“経営に役立つ”ことになる。
このページの先頭へ 詳しくは<36-01-45>

 44. ”有益な環境側面”という誤謬  −ISO14001導入で負う環境責任とは
<有益な環境側面>
   ISO14001 4.3.3項の「環境側面」に関連して諸解説は“有益な環境側面”をとり上げることの大切さを強調し、登録審査でも普通この状況が確認される。“有益な環境側面”とは一般に、製品の省エネや長寿命化設計、エコ商品の開発など設計開発部門の活動、或いは、廃棄物再利用や分別回収の活動であるが、更にグリーン調達やエコ製品の販売、はたまた環境ボランティア活動や環境教育、禁煙運動までもが例示されている。
 
<解釈、取扱いの誤謬>
   このような“有益な環境側面”の取扱いが適切だとはとても考えられない。
   
第一に、ISO14001の意義である。事業活動は人の生活を豊かにするのが目的ではあるが、本質的に天然資源の収奪であり環境破壊を伴う。地球規模の環境悪化を前にして1991年、世界の経済人がISOに要請したのは、経済発展と地球環境保全を両立させるための産業界の責任の果たし方についての世界共通の規範の確立であった。ISO14001に定める組織の環境責任とは、事業に伴う環境影響をその利害関係者のニーズと期待に応じて、又、財務上、技術的に可能な限りに管理し、改善することである(規格序文)。ISO14001の狙いが“有害な環境側面”であり、“有益な環境側面”は本筋でないことは自明の理である。

第二に、例示される“有益な環境側面”の多くが“有害な環境側面”を改善する活動と同じである。例えば材料屑再使用の工程は、“有益な環境側面”であろうが、実際には廃棄物の削減対策として実施されているから、「継続的改善」(3.2項)の「汚染防止*」(3.18項)の活動である。このような「汚染防止*」の活動を含めるのなら、排水処理、排煙集塵、防音壁、排ガス浄化装置など公害対策もすべて“有益な環境側面”となってしまう。

第三に、森林事業や水田農業、或いは、廃棄物処理業や資源再生業などは、事業自体を“有益な環境側面”にとりあげて、売上拡大を図るべきと説かれる。しかし、前者は過剰伐採又は過剰農薬使用という“有害な環境側面”と裏腹であり、後者も事業遂行にそれなりの“有害な環境側面”を有している。“有害な環境側面”を放置して“有益な環境側面”を強調しても利害関係者の理解も支持も得られない。それに、事業が環境保全に資するとして売上拡大を図るのは事業戦略や営業管理の問題であり、ISO14001に依らずとも実行できる。

第四に、環境教育や禁煙運動となると、規格の「環境影響」とは何も関係ない。

第五に、“有益な環境側面”に関する要求事項はどこにも存在しない。この概念は「環境影響」の定義(3.7項)の「有益と有害によらず」という文言から出てきたと思われ、確かにISO14004にもこれをうかがわせる記述がある。しかしこれは、特定した「環境側面」(4.3.1 a)項)から「著しい環境側面」を決定する(同 b)項)際に、“有害でない”という意味で用いられる表現、概念に過ぎない。少なくとも、“有益な環境側面”を必ず特定しなければならないとか、「著しい環境側面」のリストの中に含まれていなければならないとは書かれていない。
 
<規格導入で負う環境責任>
   日本ではISO14001の意義が顧みられることはなく、全員参加の環境改善運動の仕組みとして、規格条文に業界権威に始まる様々な安易な解釈が行われ、取組みの多くが登録証取得ゲームと化している。深刻化する地球環境に対して組織に期待されている環境責任とは、諸解説の説くような“有益な環境側面”を一覧表に記載するというような生易しいものではないのである。
このページの先頭へ 詳しくは<36-01-44>

 43. “OK”や“レ”は 検査の記録として適切か −考慮すべき種々の要素
<検査の記録>
  ISO9001の製品の監視、測定の要求事項(8.2.4項)に関して、検査帳票の該当する検査項目欄に”OK”と記入し、或いは”レ”を記すだけのものを検査の記録としている例が少なくない。これは検査を実施した記録としては有効かもしれないが、規格は検査の記録とは「合否判定基準への適合の証拠」であると規定しており、これに相当するかどうかになると問題なしとしない
 
<合否判定基準への適合の証拠>
   検査の記録について94年版は、「合否判定基準に従って合格したことを明確に示す*」記録である(4.10.5項)とし、合否判定基準は「主観的要素を含み特徴や要件を明確にしたもの*」であること(4.2.3 g)項)と明確である。2000年版は汎用的(generic)な規格として表現が変わったが、要求事項の本質は不変である。すなわち、規格の規定する「合否判定基準への適合の証拠」とは、どのような監視、測定結果をどのような合否判定基準に照らしてどのように合格と判断したのかが明確になった記録を意味する。例えば寸法検査であれば、測定値104mmを許容範囲100±5mmに照らして1mmの余裕があるので合格と判断したということがわかるような記録でなければならない。当然これらのすべてが1枚の検査帳票に表されている必要はなく、関連する手順書や限界見本、検査治具などと合わせてこれらの事実が証明できるようになっておればよい。
 
<品質苦情への対応>
   ところで規格が検査記録の維持を規定しているのは、品質保証ないし顧客満足の向上のために必要であるからである。不良品はじめ顧客のニーズと期待に反する製品の出荷の防止が規格の目的であるが、現実にこれをゼロにすることはできない。しかし、顧客の苦情に適切に対応することによって、顧客の組織への信頼を繋ぎ止め、以後も組織の顧客であり続けてもらうことができる。苦情を受付けた時、顧客の怒りを和らげ、また、不信を当該製品以上に拡大させないためには、当該製品が適切な製品検査で合格したものであることを検査記録で示すことが不可欠である。また、速やかな原因調査と対策(8.5.2項)、また、他の製品に起き得る同種品質不良を見極め、問題の拡大を防ぐ処置(8.3項)をとるためには、検査の記録がとっかかりであり、その諸品質特性データが製品実現の工程の実績データと共に貴重な手掛かりとなる。検査記録はこのような目的で使用するために維持するのである。
 
<品質データ>
  次に、検査のための監視結果や測定値のデータは製品の品質水準を示すものであり、品質管理や品質改善のための不可欠な情報である。規格でも予防処置の機会を見出すために製品の特性の傾向を監視し、分析すること(8.4 c)項)を規定しており、ISO9004は製品の検査のデータを改善のために利用すること(8.2.3項)に触れている。
 
<検査活動の監視、測定>
  更に、検査業務が定められた通りに実行されているかどうかの監視、測定の観点を考慮する必要がある。検査は製品実現の各業務が定められた通りに行われ、所定の品質が得られたかどうかを確認するPDCAのCに相当する活動である。しかし、検査という業務が所定の通り実施され、検査結果が適切かどうかのCは一般には管理者による巡視、作業監視や検査記録の点検によって行われている。つまり、検査結果を直接検証するのでなく、プロセスの監視、測定(8.2.3項)に依っている。管理者がすべての検査作業を監視できない以上、実務上検査記録は、管理者の問題発見能力に見合う書き方や内容でなければならない。
 
<検査ミスの防止>
  また、現実に多くの組織で検査項目の抜け、合否判定ミスなど検査ミスによる品質不良の顧客への流出の問題を抱えている。実測値を記録させること、合否判定基準と照合できる状況をつくること、照合し判断した証拠を記録させることは、検査ミスにつながる思い込み、思い違い、うっかり、ぼんやりを防ぐ最も基礎的な実務上の方法である。
 
<規格要求事項の意図>
  “OK”や“レ”を記すのみ帳票が検査記録として適切かどうかは、「合否判定基準への適合の証拠」という文面に適合するか否かの他に、要求事項の意図する記録の諸使用目的に適うかどうかで考えてみることが必要である。
 
   また、”OK”や”レ”を記すのみの検査記録について、製品や検査方法の特徴からそれしかできないという理由づけがなされることも多い。これは、規格の要求だから実施しなければならないという要求事項解釈では問題ないかもしれないし、実際、登録審査上で障害にはなっていない。しかし、ISO9001は顧客要求事項への適合を確実にすることによって顧客満足の向上を図る組織のためにある(1.1 b)項)のであり、要求事項は、不良品を出さないためにどうするべきかということである。規格は、検査が不可能な場合は「プロセスの妥当性確認」(7.5.2項)という別の選択肢をも挙げている。検査の方法や記録の在り方は、要求事項の文言にあてはまるか、或いは、それが可能かどうか、容易に出来るかどうかではなく、品質保証或いは顧客満足向上に必要か、十分かどうかで決めなければならないのである。
 
   形式的な規格解釈が行われ、実際にも形式的な業務が行われるのは、不良製品出荷阻止の必要を感じていない組織が規格の認証取得をしていることに起因しているのかもしれない。
このページの先頭へ 2006.11.19

 42. スキル評価表と力量の明確化   −無意味な形式
<スキル評価>
  ISO9001:6.2項に関して、要員の人材育成管理で使用される”スキル評価”の手法が採り入れられているが、審査でもその運用と教育訓練記録を示せば「要員は力量があること」などすべての要求事項を満たすとみなされている。
 
<力量>
  「力量がある」の原英語はcompetentで、何かを行うために「不可欠な又は適切な能力」或いは「首尾よく又は必要な程度に行うのに十分な技能、知識」を持っているという意味であり、「力量(competence)」はそのような能力又はそのような状態であることを意味する。「何か」とは規格では「製品品質に影響がある仕事」であるから、「力量」とは個々の要員が委ねられた業務(職務)を執り行い所定の結果を出すことのできる能力、つまり職務遂行力のことである。この力量の有無は「(学校)教育、(組織内での)教育訓練、(特別な)技能及び経験(職務経歴)」(6.2.1項)を基準として判断すればよい。
 
<資源マネジメント>
  適切な資源なくしては品質マネジメントシステムは機能しない。狙い通りに機能させるには「必要な資源が何であるかを決定し、それを使用できる状態*」(6.1項)を保たなければならない。規格は人的資源として力量と認識という2つの概念を提起し、品質マネジメントの効果的な実行、つまり不良品を発生させず顧客満足向上を図るために必要な「力量」を組織内に確保しておくためのPDCAサイクルを規定している(6.2.1 a)〜c)項)。
 
<力量確保の管理>
  このPDCAサイクルではまず、組織は現在及び将来に必要な力量を現状と比較(ISO9004;6.2.2.1項)し、組織に、各職場に、時には特定の要員にどのような種類、水準の力量が不足するか決めなければならない。これが6.2.1 a)項の「必要な力量の決定*」である。
 
  力量が不足となる要因には、事業戦略、計画に伴う新たな力量の必要、異動や退職に伴う力量の消失、手順や設備の変化に伴う新たな業務の力量の必要、職務遂行実績から判明した力量不足、法改正に伴う新たな資格取得の必要などが考えられる(ISO9004;6.2.2.1項)。また、採用や異動に際しては新職務の力量の欠如や不足が生じ、是正処置(8.5.2項)、予防処置(8.5.3項)、内部監査(8.2.2項)からも不足力量が判明する。力量の充足の必要性は最終的には マネジメントレビューでの評価に供され、その結論のひとつとなる(5.6.3 c)項)。
 
  不足する力量は教育訓練か採用など他の処置により充足し(同 b)項)、それを確実にするためにそれらの力量充足処置の有効性を評価し(同 c)項)、この結果は次の力量ニーズの決定に反映させる。
 
<力量確保の管理としての”スキル評価”>
  一般の”スキル評価”では、職場単位にその業務の遂行に必要な要素作業や要素技能を細分して取り出し、そのひとつひとつに関する各要員の習熟度を数段階に格付けする。これに基づき教育訓練を計画し、習熟度を定期的に再評価して各人の格付けを変更する。この”スキル評価”を6.2項に関連して適用することは的を得たことと言い難い。
 
  第一に力量とは「知識と技能を活用する証拠で裏付けられた能力*」と定義(ISO9000; 3.9.12)されているように、所定の業務を行う総合的な能力のことであるから、各要員に与えた業務と無関係に、職場の業務の要素知識と要素技能の習熟度を表した”スキル評価表”では、各要員の当該職務の遂行力の有無は判断できない。更に、”スキル評価”は現在の業務と要員の能力のみが対象であり、規格の意図の幅広い力量ニーズを扱っていない。”スキル評価”は人材育成には役立つのかもしれないが、力量確保の管理にはほとんど無力である。
 
<結論>
  6.2項は、要員の職務遂行力たる「力量」という概念を提示し、各要員がその担当職務に必要な種類、水準の力量をもっているようにしないと、品質マネジメントを効果的に行って不良品防止、顧客満足の向上を達成することはできないという経験的事実を指摘し、論理を明確にしたものである。
 
  何かを何らかの方法で行って個々の要求事項の日本語を満たしても、規格の論理、意図に沿ったものでない限り、品質マネジメントを効果的なものとはならず、従ってその狙いは達成できない。“スキル評価表”の運用と教育記録とを以て審査には堪えているが、品質マネジメントの業務としては無駄で無意味な形式に過ぎない。6.21 a)項のJIS和訳「必要な力量を明確にする」は原英文では、determine the necessary competence であるから、どんな力量が不足し、充足必要なのかを決定することである。何のためにを考えないで「明確にする」が「規格要求」だからと言って、誤訳をそのままに”スキル評価表”に「明確にした」という規格要求対応型ISO取組みの典型である。
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 41.  是正処置の効果の事後確認     −実務を無視した解釈
<是正処置の効果の事後確認>
   ISO9001の是正処置では「実施した活動のレビュー」が規定(8.5.2 f)項)されており、これは事後に有効性を確認することと解釈されている。多くの組織で使用している規格のa)〜f)項の手順を書式にした「是正処置要求、実施報告書」でも、最末尾が「効果確認」の欄である。登録審査でこの欄の未記入があっても、組織の「もう少し経ってから行う」との言訳けを審査員も認める。ISO14001では「とられた是正処置の有効性をレビューする」(4.5.3 e)項)だから、事後の効果確認が当然と受けとめられている。
 
<是正処置の有効性の確認>
   是正処置とは、起きてしまった不都合な問題を再発させないためにとるいわゆる再発防止対策のことである。 問題で生じた損失を再び被ることが組織として許されない或いは著しく不都合であると判断される問題を二度と起こさないためにとる処置である。例えば、重大クレームの再発は顧客との取引の停止も免れないし、環境法規制違反事故を繰返せば操業停止の行政処分もあり得る。これら再発すればまずい問題を再発させないようとった処置が有効なものかどうかを、対策実施後しばらく経って実際に問題が再発したかどうを見直して判断するというようなお粗末は、実務では許されない。クレーム対策の処置の有効性を、次の製品、サービスの引渡しの前に自ら確認するということは実務では当然のこととして行われている。他の問題でも同じで、処置の有効なことを確認して初めて手順を改定し正式の実行を開始するのである。規格ではこのことを「とった処置の結果の記録」「とられた是正処置の結果を記録する」として規定(8.5.2 e)/4.5.3 d)項)している。すなわち規格は「とった処置」ではなく「とった処置の結果」の記録を規定することで、とった処置の有効性を事前に確認する必要を指摘しているのである。
 
<是正処置の見直し>
   有効性の確証を得て実施した是正処置であっても、以後の実施状況と結果を監視測定するよう規定している。これが「レビュー」の条項(8.5.2 f)/4.5.3 e)項)であり、これは是正処置のPDCAのC,Aの行為である。JIS9001の和訳は冗長だが、英原文は reviewing corrective action takenであるから、単純に「とられた是正処置を見直す」である。すなわち、この「レビュー」とは是正処置をとった後のある時期に、改定された手順が引続き実行されているか、或いは、その後の製品、サービスが狙い通りの評価を顧客から受けているか等を改めて調査検討することである。例えば過剰な処置ではなかったか、対策処置が生産性やコスト或いは他の品質や環境影響の発生に予期しない又は予想以上の悪影響をもたらしてはいないか等々、適当(adequacy)か、適切(suitability)かを含めて有効性(effectiveness)を吟味することと解するのが組織の実務に合致する。例えばあるクレームが再発しているかどうかをこの調査で初めて知るというのは管理不在という他になく、そのような仕事の仕方ではとても顧客満足は向上しない。
 
<実務を無視した規格解釈>
   ISO9001/14001両規格は規格作成者の創造物ではなく、世界の成功企業の体験たる業務方法をシステムの要素として取込み体系化したものであり、組織の効果的な実務の在り方を規定している。ところが日本ではJIS条文の日本語を基に、実務との関連を無視した解釈が“規格の要求”として打ち出される。取引や操業、事業の健全な維持発展が出来るかどうかを意に介しない上記の“是正処置の効果確認”の解釈もこの典型である。この種の解釈が、組織の大半が規格導入の効果を実感出来ないでいる現状の源であると思う。
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 40.  米国産牛肉の輸入全面停止は防げた!−ISO時事寸評(番外編-2)
    輸入再開したばかりの米国産牛肉に危険部位の脊柱の混入が見つかり、再び輸入が全面停止された。ISO9001は品質不良品を顧客に出荷しないようにする業務の在り方を規定している。 政府を含む関係諸組織がISO9001の教えに沿って業務を行っておれば事件は生じなかったはずである。どこに問題があったか、ISO9001の規定に照らして考察する。
 
<供給者の評価、選定>
米国農務長官は脊柱混入の原因は農務省検査官が日本向け除去基準を認識していなかったことと発表した(1/21)。 一方、輸入再開以前に食肉処理施設を現地調査するとの閣議決定があったのに、「輸入再開後でないと実効性のある調査ができない」ために実施しなかったと農水相は国会答弁した(1/30夕)。
――ISO9001では、組織の製品品質に影響する物品、サービスの購入は、品質特性など必要な事項を間違いなく満たす能力をもった供給者を選んで行う(7.4.1項)べきことを規定している。 組織が初めての製品、サービスの購入或いは初めての供給者からの購入を行う場合には、設備、要員、管理体制など供給者の能力が組織の必要を満たすに十分かどうか評価して、選定することが必要である。組織はこの評価、選定の基準を定めておかなければならない。 輸入再開前に食肉処理施設を現地調査して、日本向け基準が守られる状況にあることを適切な基準で評価し、輸入可能な食肉処理施設を選定しておけば、今回の事件はまず起きなかった。
 
<製品の検査と記録>
危険部位混入で政府は全面輸入停止という異例の処置をとり、市場では売場からの撤去、食肉、外食業界による出荷、販売停止が拡がった(1/21)。 一方、米国では「ブレーキ故障が見つかったため日本車の輸入を全面禁止するのと同様の愚行」と禁輸への不満が大きくなってきた(1/31)。
――ISO9001では、「製品実現の適切な段階で製品を監視及び測定すること」(8.2.4項)と、出荷前の製品の検査や試験による検証と「合否判定基準への適合の証拠」の記録を規定している。 組織は検査や試験を行ったなら、どのような合否判定基準に照らしてどのように評価し合格と判断したのかの記録をとり、その記録は必要な期間維持しなければならない。 発見された不良牛肉の原因が特異な検査ミス(1/21夕)であるなら、その他の牛肉は問題ない可能性が高い。米国の食肉処理施設は、起きた検査ミスとの関連で検査記録を見直し、出荷済の牛肉の安全性を評価できる。安全性に確信をもてる牛肉は、検査記録など証拠を提示して日本政府を納得させることができる。 検査記録はこのような場合に使用するのが目的である。米国食肉加工施設への信頼を確立した後に輸入を再開し、検査記録が適切だったなら、全面禁輸の処置は必要なかった。
 
<購買品の受入検証>
発見された脊柱つき牛肉は一目瞭然のお粗末なものであった(1/21)。 政府は輸入済の牛肉の回収措置は取らない(1/21)が、危険部位が混在していないか自主的な調査をするよう商社や国内の処理業に要請した(1/23夕)。
――ISO9001で、組織は顧客満足向上のために製品に必要な品質を、法令その他の規制の有無を含む4つの観点から決定(7.2.1項)し、購入する物品、サービスはこのために必要な条件を明確にして発注すべき(7.4.2項)ことを規定している。例えばスーパーは、BSE安全性のため、販売予定の牛肉が日米合意の輸入条件を満たしたものでなければならない旨定め、商社ないし国内食肉処理施設への発注にはその旨明確に要求する必要がある。 更に規格は、組織が購買品の受取り時に要求した条件が満たされていることを検証する(7.4.2項)べきことを規定しているから、スーパーは入荷した牛肉が輸入条件を遵守したものであることを確認する必要がある。この確認の程度、方法に関しては、「購買製品が最終製品に及ぼす影響に応じて」と規定されている。 米国の管理体制に疑問があった状況では、特に確かな受入検証が必要だった訳だが、平時の検証でも一目瞭然の不良は発見できなければならない。適切な受入検証が実行されておれば、業界は販売、出荷を見合せ、売上増加の機会を失うようなことにはならなかったかもしれない。
 
<まとめ>
ISO9001は、品質保証の実証されたの論理の体系である。 規定は、組織への「要求」ではなく、組織に「必要」な条件である。 組織が規格の必要条件を満たせば、今回の事件のような品質不良は生じない。
 
(註) 記事はすべて日経新聞。 (  )内は発行日付。
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 39. 毎日実施するマネジメント・レビュー  −誤訳と誤解
<マネジメントシステムの見直し>
  ISO9001/14001両規格とも「マネジメントレビュー」の実施を規定しているが、日本では「経営者(層)による見直し」の意味に受けとめ、年に1、2回では不十分、最低でも月1回、或いは、毎日やるのがよいとか、トップマネジメントがクレーム処理の指示を出すことがマネジメントレビューだというような様々な解釈が発表されている。
 
<原英語の正しい解釈>
  間違いの根本は、JIS翻訳が原英語の management reviewを「経営者(層) がreview する」の意味に解釈したことにある。すなわち、このような2つの名詞から成る言葉は英文法上では群名詞であり、その用法(2)では「management (マネジメント活動)を review する」の意味である。
 
  ここに、review とは「再び見る」で、動詞では「顧みる、過去を振り返る」、名詞では「一定期間の行事としての総合的検分」の意味である。「マネジメントレビュー」とは「マネジメント(活動)を過去に遡って総合的に検分する」という管理の仕組みのひとつとしての定例的な見直し行為ということになる。
 
<マネジメント(活動)の見直し>
  一般に組織は、1年を期間的単位として事業の管理を行っている。 どの組織も、会計年度末には収支を締め切り納税額を計算する。なぜそうなったかを分析し、次年度の収支を予測することもする。年度初めに販売目標、更に生産や経費の目標或いは予算を設定している組織では年度末の収支分析では年初計画との差異の分析で内外の問題点を特定し、次年度の目標や取組み事項などの計画に反映する。 対象の広狭、活動の明確さに違いはあっても、どこでも年度末には実績、実情の総合評価、つまり、1年間のマネジメント活動の見直しが行われている。これが規格の意図するマネジメントレビューである。
 
<マネジメントレビューの特徴>
  規格では「レビュー」を「対象がその目標の達成にふさわしいか、適切か、有効かを決定するために行われる活動*」と定義しており、「マネジメントレビュー」の特徴は要求事項の所々の記述の中で規定している。 すなわち、「見直し」は年初の計画である「品質方針、目標の達成に関連しての評価」であり、結果は「方針、目標及びマネジメントシステムの他の要素の変更に関係する決定及び処置」を含み、次年度取組みである「組織の品質業績改善の計画に使用」される。 トップマネジメントは日々に個々の問題を判断し決定を下しているが、年度末には改めて「個々の問題から一歩引き下がって、品質マネジメントシステムの全体を見渡して」「公式に」、必要なすべての情報を一度に総合的に評価、検討する「体系的評価」を行う。時期は思いつきでなく「計画された間隔で」、つまり、制度として「定例的に」実施される。また、両規格とも方針や計画の条項をP、マネジメントレビューの条項をAとして配置するマネジメントのPDCAサイクルをその構造としている。
 
<マネジメントシステムとマネジメントレビュー>
  組織のマネジメントはトップマネジメントが各層の管理者を指揮監督して行う活動である。 マネジメントシステムとはマネジメントの諸業務がばらばらではなく、体系的に実行されていることを表す表現で、直訳すれば「マネジメントの業務体系」である。 トップマネジメントは、マネジメントの期間的単位の初めに方針設定などマネジメントシステムの計画を行い、実施を管理し、期間的単位の終わりにはマネジメント(活動)を改めて見直すマネジメントレビューを行う。この見直しはすべての問題を総合的に検討することであるから、毎日実施するようなものではない。
 
  品質或いは環境マネジメントシステムを確立、運用する組織とは、収支や販売、経費等と同じように品質や環境を組織の事業課題のひとつとして管理することを意味するから、品質、環境マネジメントに関してもマネジメントレビューを行う必要がある。
 
<誤訳と誤解>
  日本では、ISO9001/14001規格のマネジメントシステムは品質ないし環境改善活動のひとつの形式である。この考えの中で、トップマネジメントが規格の規定する業務に関して少しでも判断し指示をしたとすればそれがマネジメントレビューと見做され、それ故に年に1回位のマネジメントレビューでは不十分だというような解説が現れる。
 
  JIS和訳には多くの誤訳や不適切な翻訳日本文があるが、いずれも規格の本質や意図に照らして翻訳が行われるなら避けることができたと思われるものである。 マネジメントレビューもその典型であり、マネジメントの実務に関連づけて規格の意図に想いを馳せたなら、英文法上のこの単純な誤りを犯すことはなく、いろんな誤った解釈も派生しなかったはずである。
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 31. パソコン修理ミス−時事問題でISOを考える(番外編)
   パソコンのハードディスクを購入時の状態に戻す”初期化”操作の途中でパソコン動作が停止するのでサポート窓口に相談し、その指示による「DISKPART」なる操作でも問題解決せず、マザーボード、メモリー不具合が原因と診断され、取替え修理を依頼した。然るに修理後も初期化の以前と同様の段階でパソコン動作が停止し、苦情を申立てて8日後の訪問修理でのハードディスク交換でやっと初期化に成功した。延べ14日間パソコン使用不能で業務上の損害を被りメーカー不信をつのらされたが、その中心の単純な修理ミスとメーカーの問題対応に関してISO19001の要求事項との関係で考えてみたい。
 
   まず、修理目的が顧客の想いの「”リカバリCD-ROM”による初期化」ではなく「”DISKPART”からのリカバリ」と受止められていた。ISO9001は、顧客が求めるサービス要求事項の明確化(7.2.1a)項)、契約締結前の確認と記録の維持(7.2.2項)を規定している。この場合、「お見積書」に修理を承諾する旨の顧客の記名があり、その「お客さまご依頼内容」欄には「DISKPARTからのリカバリ不可」とサービス要求事項が明記されているので、顧客の「そんなことは頼んでいない」との異議に対して規格要求事項の意図の通りメーカーはこれを提示して自らの正当性を主張できる。しかし、「顧客要求事項が顧客と合意され満たされた場合でも、それが高い顧客満足を確実にするとは限らない*」(ISO9000 3.1.4項 参考2)と言われるように、顧客が合意した証拠を提示してもその内容が顧客の想いと異なる以上は意味がない。サービス要求事項を顧客満足向上の観点で決定することを確実にするのはトップマネジメントの責任である(5.2項)。
 
   次に修理サービスの品質に関してISO9001は、試験、検査の実施、合否判定基準への適合の証拠の維持、製品の出荷を許可した人の記録(8.2.4項)を規定している。これらは苦情受付けに際して、問題の原因の追求及び間違いない品質を出荷したとの主張のために意図された規定である。このメーカーは「検証の方法や直ったと判断した基準とその証拠」を最後まで示さず、品質保証体制への顧客の不信を増幅し、しかも初期化不能の原因がわからず直す当てのないまま無謀にも苦情解決の顧客訪問を敢行した。
   
   また、現品に添付の「診断・修理報告書」にCPU、表示、ハードディスク、CD-ROMの項にレ点がつけられた「テストプログラムによる機能確認」記録がある。ISO9001は、規定要求事項が満たされたことを確認する検証(:ISO9000;3.8.4項)を製品実現の計画に定め(7.1c)項)、計画通りに製品を監視、測定すること(8.2.4項)を規定しているが、この場合の規定要求事項とは「初期化を可能にすること」であるから単体の機能確認は技術的に必要な検証に相当しない。検証手順がなく検査せずに出荷すると品質問題を引き起こすから、ISO9001のこの規定がある。
   
   第三に、ISO9001は苦情を受付けたら「その不適合による影響又は起こり得る影響に対して適切な処置をとること」(8.3項)の必要を規定している。この場合は、顧客のパソコン使用不能による業務上の支障の緩和のための一刻も早い修復努力、代替パソコン貸与などが相当する。修理訪問日程にさえ自社都合を優先させるこのメーカーには自らの不始末が顧客に与えた迷惑に想いを致す習慣や能力がないということだ。
 
   JAB統計によるとこのメーカーは 92 ケ所でISO9001の登録を取得し、修理担当の会社もホームページで「魅力ある商品、サービスの提供」「お客様起点の品質と納期を確保し、競争力のある商品を提供」を品質方針に掲げている。ISO9001は、トップマネジメントが品質方針を全社に伝え、理解させること(5.3 d)項)の必要を規定しているが、そうでないとトップマネジメントの意向に沿った業務が行われないことにもなるからである。実際、この品質方針にそぐわない自己都合起点の、顧客軽視の修理品質保証、苦情処理が行われている。
 
   結果的にこのメーカーは次のパソコン購入先候補からはずれた。ISO9001を品質改善運動の如く捉える解説が少なくないが、実は顧客を獲得するか失うかという組織の日常の現実に関するマネジメントの在り方を規定しているものである。
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30. 経営者に対する内部監査は必要か?  
    ISOマネジメントシステム規格の内部監査に関して、経営者、つまり、トップマネジメントトに対する監査が必要かどうかについての議論がある。この議論で多様な理由づけの説明があるが、「経営者に対する監査」なる概念自体への吟味が欠けている。
 
   すなわちこの命題表現は、経営者を監査の場に引き出して問い質すという状況を想定しており、恐れ多くも内部監査員がそんなことをしてよいのかという素朴な躊躇を反映している。しかし規格の内部監査は業務監査であり、業務監査は組織の業務の実行状況や成果を調査し、基準に照らして判定する活動である。監査は「人の行う業務を調査する」のであって「業務を行う人を調査」するのではない。また、監査員は調査すべき命題に関して適否を判断するための監査証拠を収集するが、このための監査技法には実査、立会、確認、質問、視察、閲覧、突合せ、分析、比較等々がある。確かに質問は最もよく適用される監査技法だが、多様な監査技法のひとつに過ぎず、質問で得る回答の証拠力は弱いから文書や他の物理的証拠のような証拠力の強い監査証拠を入手するための手段としての適用が普通である。
 
   監査の本質や実際に則れば「経営者に対する監査」ではなく「経営者の業務に対する監査」であり、経営者への質問は必須ではない。監査についてのこのような理解にたって、内部監査が「経営者」を対象とするのかどうかという議論でなければならない。
 
   そもそも、内部監査とは日常的にすべてに目を行き届かせられないトップマネジメントトが、各層管理者に委託した諸業務の実施状況を内部監査員に命じて調査させ報告を受けるという活動である。内部監査はトップマネジメントが部下の業務を監視する手段であり、「経営者の業務の実施状況」の監視を行うものではない。第一、方針設定、マネジメントレビュー実施等を自ら決めてコミットしたトップマネジメントが、その実行状況を部下である内部監査員の調査と判定に委ねるというようなことは想像できない。しかし例えば、規格が規定する品質、環境方針の組織内への周知というトップマネジメントの責任に関して、トップマネジメントがとった行動や処置は内部監査の対象外であっても、各人が必要な程度に方針を理解し実践しているかどうかの調査、判定は内部監査の範疇であろう。
 
   トップマネジメントの業務実行を監視するのはその業務を委託した取締役会、株主総会の責任であり、その監査は経営監査と呼ばれ、業務監査とは区分される。経営監査を内部の監査員が行うとしても、その結果の報告を受けるのは経営者に業務を委託した取締役会、株主総会である。
 
   日本ではISOマネジメントシステムは、組織の日々のマネジメントの活動の一部とするのでなく、品質或いは環境改善運動として捉えられがちである。この中で内部監査は改善運動の実施状況の自主チェック、相互注意の活動として扱われる。「経営者に対する内部監査」の議論は、本質の議論なしのこのような形式的な規格理解が背景だと思う。
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15. 内部監査員は部課長以上であることが必須
   ISOマネジメントシステムに関して内部監査の重要性を強調する声が高い。 最近では組織の業績の改善に寄与させるなど内部監査の機能向上も議論が浮上してきた。しかし研修の強化が叫ばれても監査員にふさわしい力量とは何かの本質に遡ってこれを議論した例は聞かない。
 
   内部監査を行なうにふさわしい能力は監査の規格(JISQ19011)では「力量」と呼び、「個人的特質と知識及び技能を使用する能力(筆者翻訳)」と定義される。 ここに、必要な知識には、規格と監査に関する知識の他、監査の対象となる組織の業務に関する知識が必須である。 技能とは監査を行なう技能,つまり、監査技法を実行する能力である。 そして、備えた知識と技能を実際の場で適切に使用することができなければならないが、この能力は実地経験によって育まれる。 規格の定義に沿って考えるに力量には、個人的特質の他、業務知識、規格知識、監査知識、監査技能、監査経験の6つの要素がある。
   
   ところで、普通の内部監査員研修は力量要素の内の、規格知識、監査知識、監査技能が対象である。受講によりこれらを習得できる理屈だが、新しい知識と技能の吸収にはそれなりの知識の基盤が必要である。必要な知識基盤の持ち主が受講して初めて研修は有効なものとなる。そして業務関連の知識基盤は基本的に業務経験に負う。
 
   業務の監査である以上、組織の業務に関する知識は最も大切である。監査員は対象業務の知識のみならず、部門の機能や役割、組織の業務体系全体、更には組織の戦略的意図、その時点での状況や緊要の問題など組織の活動についての全般的な知識を持っていることが必要である。 システムの効果的実施の程度や組織の業績改善に関して経営者に提言するような監査に必要なマネジメント知識と理解は、少なくともミドルマネジメントの管理者以上でしか持ち得ない。
 
   更に、JISQ19011が挙げる「個人的特質」も、業務や職責を通じて強化される類の能力である。 しかもそれらの能力は組織が人々の業務遂行能力を評価する一般的な指標と一致している。 従ってこれらの特質を有する人々とは自然に管理者層と重なることになる。
 
   規格の意図する効果的な内部監査とするためには、そして、経営に役立つ内部監査や組織の業績改善に資する内部監査を求めるなら、監査員が本当にそれにふさわしい力量をもっているのかどうかが鍵である。 力量を規格の意図に従って6つ要素に分けて考えると、内部監査員は少なくともミドルマネジメント層の管理者、つまり、一般には部長、課長クラス以上から選定することが必要である。 今日の多くの内部監査が手順の不順守の相互指摘活動に堕しているのは、監査員にふさわしい力量を持ち得ない人々を内部監査員に任命しているという規格要求事項の形式的適用が原因であると思う。
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