ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
7.5.4項   顧客の所有物 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その52>
35-01-52
7.5.4 顧客の所有物
[第1文] 組織は、顧客の所有物について、それが組織の管理下にある間、又は組織がそれを使用している間は、注意を払うこと。
[第2文] 組織は、使用するため又は製品に組み込むために提供された顧客の所有物の識別、検証及び保護・防護を実施すること。
[第3文] 顧客の所有物を紛失、損傷した場合又は使用には適さないとわかった場合には、顧客に報告し、記録を維持すること(4.2.4参照)。
1. [7.5.4項]の概要
  本項では、品質マネジメントに必要な資源が顧客の所有物である場合に、その不適切な使用と維持により顧客に迷惑や損害を与え、製品の顧客満足に影響するような事態を避けるための、それら顧客所有物の管理に関する要件が規定されている。
 
 
2. 顧客所有物
(1) 顧客所有物の管理
  組織の品質マネジメントシステムは、概念としては顧客満足向上を図る経営管理の諸業務の有機的集合体であり、実体的には資源とその利用の手順から成る。 資源とは要員、インフラストラクチャー、作業環境、情報、供給者、天然資源、財務資源等々である。 これら資源は基本的に組織の所有物であるが、特定の業務のため資源を組織が顧客から預かり、使用し、管理している場合がある。
 
  顧客が品質マネジメントのための資源として顧客所有物を支給し、或いは、預け、組織に使用させるのは、顧客が受取る製品の品質、つまり製品に関するニーズと期待が満たされることを確実にするためである。 このために顧客はその財産の管理を組織に委ねるのであるが、組織が必要な管理を怠り、貸与した顧客所有物の管理に関する顧客のニーズと期待を裏切った場合は、顧客は受取る製品品質への悪影響と共に、自らの財産の毀損という相応の迷惑や損害を被る。 顧客所有物の管理に関して顧客に迷惑や損害を与えることは、顧客に製品を買い続けてもらうための顧客満足の観点では不良製品の引渡しと変わらない。
 
  これを規格の顧客満足の論理で考えると以下のようになる。 すなわち、規格では、大抵の事業の製品は複数の製品類型から構成されるという考えに立っている#6。 例えば、自動車という製品は、本体だけでなく、素材製品(冷却液)、ソフトウェア(使用説明書)、サービス(販売員による説明)から構成されるとみなされる。 自動車を売るためには、本体の性能に関する顧客満足だけでなく、使用説明書のわかり易さや販売員の応対の良し悪しというサービスの品質に関する顧客満足の向上も図らなければならない。 顧客所有物を預かり、使用するのも、それに関する顧客のニーズと期待がある以上は、それ自身が製品供給事業に含まれるサービス提供事業であると考えなければならない。 顧客所有物の管理の結果に関する顧客の受けとめ方は供給する製品の顧客満足と無関係たり得ないのである。
 
  顧客所有物である資源も使用と維持に関しては、品質マネジメントの所定の必要を満たすように組織の所有物と同じように取り扱わなければならない。 加えて、組織にはそれら資源の顧客の財産としての管理の責任が生じるのである。 規格は本項の要求事項の記述の中で、この管理責任を、顧客所有物が紛失、損傷し、又は、使用に適さない状態になることを防止すること、及び、使用に適さない顧客所有物を組織が使用することのないようにすること、であると規定している。
 
  しかし前者に関しては例えば、品質マネジメントの効果的実行のための測定機器の精度の維持に関する「取扱い、保守、保管において、損傷及び劣化しないように保護する」ことの必要(7.6 e)項)は、貸与された測定機器の顧客財産としての管理のための必要と合致する。 このように実際には前者に関しては、両観点からの資源の管理に重なり合う部分が少なくない。また、例えば、加工のために顧客支給の素材を使用する場合に、当該素材に関して「製品要求事項が満たされていることを検証」すること(8.2.4項)は、そのまま後者の顧客所有物管理責任を果たすことにつながる。 例えば、顧客の装置を修理する場合は、そのサービス提供の管理(7.5.1項)の手順には当該装置を傷つけたり、壊したりすることのないような作業方法が含まれなければならないから、これ以上の顧客財産保護の観点の手順は不要である。
 
  このように、顧客所有物であっても品質マネジメントに必要な資源であるから、各顧客所有物をそれぞれの資源としての使用と維持に関する要求事項に則って管理することがまず必要である。 これによって、顧客財産の必要な保護が図られる部分が大きい。 従って、実務的には一般に、顧客財産の管理のために特別な手順が必要である訳ではなく、規格が定める各資源としての使用と維持の管理で不足する管理だけを追加することが、本項の規格の意図に適うことになる。
 
(2) 管理が必要な顧客所有物
  顧客所有物は、94年版#1では「顧客支給品(customer-supplied product)」と呼ばれ、「納入製品に組み込むために支給される」ものと「関連する活動のために支給される*」ものとに分けられていた。 前者には原料や素材、半製品、組込み部品などがあり、後者には工具、計測器、試験用ソフトウェア、製品識別票、容器や包装資材などがあるとされ、また、後者には修理や洗浄などのサービス提供のために顧客から預かり、後に返却する顧客の装置や部材なども含まれると考えられていた(7)。 品質保証が目的の94年版では、規格が取り扱う顧客所有物も、組織の最終製品の品質に直接関係するものに限定されていた。 2000年版では目的が顧客満足向上に拡がった結果、呼び方も「顧客所有物(customer property)」になり、製品の品質に影響を及ぼすものだけでなく、組織の不適切な管理の結果が顧客の迷惑や損害を通じて製品の顧客満足に悪影響を及ぼす可能性のあるものへと範囲が拡がった(2b)(5)
 
  規格が意図する範囲の顧客所有物は、その不適切な取扱いや管理が組織の製品の顧客満足に及ぼす影響に関連して、次のようにまとめることができる。
 
@ 組織の最終製品の品質に直接影響を及ぼすもの
 イ) 組織の最終製品に組み込むことが目的で顧客が支給したもの
    原料、素材、半製品、部品、製品識別票、容器や包装資材など
 ロ) 所定の品質の製品を得ることを確実にするために組織が使用しなければならないとして顧客が支給したもの
    工具、装置、設備、測定機器、制服や保護具、作業指示書、手順書、図面、顧客規格、技術仕様書など
 
A 組織の最終製品の顧客満足に強く影響を及ぼすもの (顧客所有物に対してサービス提供を行なう業種)
   修理する顧客の装置、クリーニングする顧客の衣服、機能改善の対象の顧客の既存ソフトウェア、警備の対象のビル内
   の施設や装備、測量の対象の土地、職業訓練業の受講性(身体安全)、医療事業の患者(肉体)、
 
B 製品品質とは直接関係ないが、顧客の被る迷惑や損害を通じて顧客満足に悪影響を及ぼすもの
 イ) 高価な、貴重な、補充や修正の困難なものなど
 ロ) 顧客の機密情報
    手順書、図面、技術仕様書、それらに含まれる顧客固有の技術や知見、知識情報、特許情報、
    機密技術情報など、製品供給に関連して知り得た顧客の経営上、市場戦略上の機密情報など
 ハ) 製品実現のために組織が利用しなければならない顧客のサービス
    顧客のITネットワーク、顧客の電源、照明システムなど
 
 
3. 規格要求事項とその真意
  組織が品質マネジメントの実行に必要な資源として顧客所有物を使用している場合は、それぞれの資源に該当する規格要求事項に則って使用や維持管理をする他、製造及びサービス提供の計画(7.5.1項)の一環として、顧客の財産を守るという観点で不足する顧客所有物の管理の手順を追加し確立し、それに則って顧客所有物を管理しなければならない。 また、組織の原因で顧客所有物の価値を毀損した場合には、本項の要求事項に従う他、組織が異常や不良の発生に対処するために定めている手順をも適用しなければならない。
 
(1) 顧客の所有物について、管理下にある間又は使用している間は、注意を払う  [第1文]
   JIS和訳「注意を払う」の原英文は“exercise care”であるから、「注意を払う」だけでなく「大事に取り扱う」ことが必要であるというのが規格の意図である。すなわち、“care”は、ある事を大事に思って、その保護のために必要なものを提供すること(1)を意味し、“exercise”は「持っている力、権利、又は、個人の資質を活用する」(1)である。 欧米の解説書では、「注意義務を果たす」(2a)とか、顧客所有物を「守る」(3)、「大事に扱う」(4)と説明されている。
 
  顧客所有物を預かり、又は、支給されている場合に、その管理の方法や条件に関して顧客明示の要求があったり、契約で定められ、或いは、双方に合意があるなら当然、組織はそれら要求や契約、合意に従って顧客所有物を管理しなければならない。 それらがない場合でも、組織が顧客から預かり、又は、支給されたものは、顧客の財産の保護の観点から大事に取り扱わなければならない。 顧客は、自らの手元にある場合と同様に組織で大事に取り扱われることを必要とし、又は、期待している。 製品が顧客のニーズと期待を満たしても、こちらの方で問題を起こしては真の顧客満足は得られない。 組織は、各顧客所有物の顧客にとっての重要性など顧客の想いの深さに応じて大事に取り扱わなければならない。 ここに、大事に取り扱うとは、顧客所有物が組織の原因で下記(4)のように「紛失、損傷、使用に適さない」ということにならないように、下記(3)の「検証及び保護・防護」を行なうことである。
 
(2) 使用するため又は製品に組み込むために提供された顧客の所有物 [第2文 前半]
  組織が大事に取り扱うよう管理しなければならない顧客所有物は、組織の製品実現の業務で使用されるものと、組織の最終製品に組み込まれるものとに大別できる。 94年版では上記(1)の大事に取り扱う必要のある顧客所有物を、最終製品の品質に影響を及ぼす顧客所有物に限定していたが、2000年版では不適切な管理が顧客満足に悪影響を及ぼすと考えられるすべての顧客所有物にまで対象が拡げられた。 このこと、「顧客の所有物には知的所有権も含まれる」という「参考」が条項末尾に追加されたことに現れている。 組織は、大事に取り扱うことをしなかった場合に製品の品質不良に繋がるかどうかによらず、また、顧客所有物が有形か無形かによらず、更に、現にどちらの管理下にあるかによらず、大事に取り扱う必要のある顧客所有物を抽出し、下記(3)(4)の管理を適用することが必要である。
 
(3) 顧客の所有物の識別、検証及び保護・防護を実施する [第2文 後半]
  上記(2)の顧客所有物を「大事に取り扱う」ということは、顧客所有物に下記(4)のような事態や状態の生じるのを避けることである。 このために94年版では「検証、保管及び維持の管理」#1の必要を規定していたが、2000年版では「検証及び保護・防護の実施」という記述になった。 顧客所有物の範囲が拡がったことに対応した記述の変更なのであろう。
 
  「識別(identify)」は、7.5.3項(識別及びトレーサビリティ)の「識別」と同じく、「識別できるようにする」(1)ことである。 この「識別」は、顧客所有物を他のものと区別して「大事に取り扱う」ためであり、そのためにどれが顧客所有物であるかを見分けられることが必要だからである。 この「識別」の目的では、識別指標を各顧客所有物の現品、現物に関して表示する必要は必ずしもなく、例えば台帳による区別で済ますことができることが多い。 しかし、顧客所有物であることの見分け誤りを特に避ける必要がある場合には、例えば マーキングや識別票貼付、看板、置場隔離、色分けなどによって、現品、現物でも見分けることが出来るようにすることが効果的である。
 
  顧客から支給の素材を用いる加工業、顧客の衣服を洗濯するクリーニング業などでは、何が顧客所有物であるかは明確であり、敢えて「識別」の手順をもつ必要はないであろう。 逆に、多くの種類の顧客所有物を扱っている場合では、「検証及び保護・防護」の方法や手順も多様となるから、どれが顧客所有物であるかを見分けることに加えて、どの「検証及び保護・防護」の方法、手順を適用するのかを見分けることができるようにすることが必要な場合もある。 この場合、顧客所有物であること見分けるための台帳に、各顧客所有物に必要な「検証及び保護・防護」の方法や手順を規定するのもよい。 なお、顧客所有物が、例えば素材、文書、計測器などと言った普通の資源としてそれぞれの目的で「識別できるようにする」必要がある場合もあるが、その場合は、7.5.3項(製品の識別及びトレーサビリティ)をはじめ、該当するそれぞれの条項、要求事項に規定される「識別」も必要である。
 
  「検証(verify)」は、「実際に調べて証明すること(6)(真実である又は間違いないということを示すこと(1))」である。 規格では、規定の要件が満たされていることを客観的証拠で明確にすること#2と定義され、監視及び測定(8.2項)で得た事実を所定の合否判定基準に照らして評価し、合格していることを明確にすることである。 この「検証」は、各顧客所有物が下記(4)の「紛失、損傷、又は、使用に適さない」状態でないことを検証することである。 しかし、この検証は、多くの顧客所有物について普通の資源、例えば製品や半製品(8.2.4項)、計測器(7.6項)としての検証と目的は同じである。 従って、特別な定期的点検など顧客が特に求める場合を除いて、顧客所有物に関する特別な検証の手順の確立は規格の意図ではない。 各顧客所有物が該当するそれぞれの検証の要求事項を満たすだけでは顧客財産の保護の管理のための検証として十分でない場合、規格の検証の要求事項がない場合にのみ、不足する検証の手順を定めればよい。顧客所有物としての検証が他の通常の物事の検証と違うのは、不適合であることが判明した場合に下記(4)の処置をとらなければならないという点である。
 
  なお、94年版には顧客支給品の受入れ検証の必要と、顧客の良品支給責任が明記#1されていたが、2000年版では削除された。 しかし、顧客満足向上を目指す以上は、顧客支給品の不良が原因だからと言って組織が不良品或いは顧客のニーズと期待を満たさない製品を顧客に供給してよいということにはならないし、これが市場の現実である。 顧客支給品の受入れ時の検証は、購買製品の受入れ検証(7.4.3項)の手順に倣うことを含み、必要に応じたものとして確立し実行しなければならない。
 
  「保護(protect)及び防護(saferguard)」は、94年版では「保管及び維持(storage and maintenance)」と表現され、顧客所有物が物理的に劣化したり、損傷を受けたりすることのないようにすることを実質的に意味していた。 2000年版では、機密情報など知的所有権のような顧客所有物、及び、それを体現する図面、文書、見本などの顧客所有物も管理の対象であり、従って、組織の外への漏洩や組織内の関係者以外への漏洩、更に、盗難、ITネットワークへの浸入など外部からの攻撃の防止を図ることをも示唆する表現となった。 顧客所有物が下記(4)の「紛失、損傷、使用に適さない」状態になる原因には、顧客が不適切な顧客所有物を支給した、繰り返し使用により自然に劣化した、及び、組織の顧客所有物の取扱いに問題があった、の3つがある。 「保護及び防護」は組織の取扱いが原因の顧客財産の毀損を防止するための処置であり、普通の資源の効果的な使用を図るための「保護及び防護」ではない。 しかし、例えば、7.6項(監視及び測定機器の管理)や7.5.5項(製品の保存)、4.2.4項(記録の管理)のような資源の効果的な使用のための「保護及び防護」の要求事項を満たすことは、多くの場合は顧客満足の観点で紛失、損傷又は使用に適さない状態を防止するために必要な「保護及び防護」にもなる。 従って、品質マネジメントの効果的実行、資源の効果的な使用の要件を規定する規格要求事項を満たす管理では不足している「保護及び防護」の管理を追加すればよい。
 
  なお、顧客所有物を組織の供給者に支給し、又は、貸与する場合の供給者による「保護及び防護」の管理が必要な場合は、この必要な管理を「購買情報」(7.4.2項)として明確にして、供給者に要求し、かつ、管理状況を監視することが必要である。 この顧客所有物の管理状況は、供給者の業績の定期評価(7.4.1項)において必要に応じて取り上げなければならない。
 
(4) 紛失、損傷、使用に適さないとわかった場合は顧客に報告し、記録を維持する [第3文 前半]
  この「紛失」には、物として組織に存在しない状態と、顧客の知的所有権が漏洩した状況が含まれる。 いずれの理由であれ受入れ、管理する顧客所有物が、所定の使用に供せないことが判明した場合には、組織はその顧客所有物及びその状況の取扱いについて顧客の承認を得ることが必要である。 損傷や経時劣化で使用に適さなくなった顧客所有物についてはその処置と、その結果で生じた製品実現上の不都合への対処について、顧客の指示や承認を仰ぐことが必要である。 また、顧客所有物を紛失したり、損傷した場合は、損害賠償についても顧客の意向を伺うことも必要になるかもしれない。 機密情報の漏洩については顧客の被る損害を最小限にするため、即座に顧客に事実を報告することが大切である。この報告の有無や方法、問題対処の方法を予め顧客と合意している場合もある。
 
  記録を維持するのは、これらの経緯と顧客の承認を受けた事実を残し、将来にこの問題で顧客との係争が生じた場合に使用するためである。 組織の原因により「紛失、損傷、使用に適さない」顧客所有物が発生した場合は、例えば測定機器の異常が判明した場合の過去の測定結果の妥当性の評価(7.6項)、不適合製品の管理(8.3項)を初め、異常や不良に対応する通常の手順も適用しなければならない。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9001:1994, 4.7
#2 ISO9000, 3.8.4
 
引用文献 (英文献及び * 印は著者による翻訳)
(1) Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Press
(2) C.MacNee他: Transition to ISO9001:2000, BSI Publications,2001;a-p.42, b-P.43
(3) C.A.Cianfrani他: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001;p.137
(4) L.R.Beaumont: The Standard Interpretation, ISO Easy,2001;p.95
(5) J.Kanholm: ISO9000:2000 New Requirements 3rd Edition,AQA Co.; p.47
(6) 新村 出: 広辞苑、第3版、岩波書店、昭58年12月6日
(7) L.R.Beaumont: The Standard Companion, ISO Easy,1996;p.20
H20.5.30 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
 サニーヒルズ コンサルタント事務所    〒458-0031 名古屋市緑区旭出2−909