ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
7.2.1項   製品に関連する要求事項の明確化 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その36>
35-01-36
 7.2 顧客関連のプロセス
7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化

[前段記述]
         組織は、次の事項を明確にすること。顧客満足の
[箇条書き]
a) 顧客が規定した要求事項。これには引き渡し及び引き渡し後の活動に関する要求事項を含む。
 b) 顧客が明示してはいないが、指定された用途又は意図された用途が既知である場合、それらの用途に応じた要求事項。
c) 製品に関連する法令・規制要求事項
d) 組織が必要と判断する追加要求事項

1. [7.2.1項]の趣旨
  契約、受注した又は受付けた個々の製品について、顧客のニーズと期待から製品の仕様及び関連する活動の仕様を決定する手順を確立することが必要である。本項は、製品が組織の必要とする顧客満足を間違いなく得るように製品関連仕様を決定するために、どのような観点から検討し、決定することが必要であるかを規定している。
 
 
2.製品要求事項
(1) 製品に関するニーズと期待
  組織の事業の発展は、製品を顧客が買ってくれるかどうかにかかっている。 顧客満足とは簡単に言えば製品が売れることである。顧客が製品に満足感を感じることができなければ次回には製品を買ってもらえない、あるいは、供給者の地位を失う。しかし、94年版は顧客満足を製品実現のすべてのプロセスで不適合を防止することによって得ることができる#4とし、「製品が規定要求事項に適合することを確実にするための手段」#3を規定していた。この規定要求事項とは顧客と合意した製品の品質を意味し、従って、不適合製品とは規定要求事項を満たさない不良品や欠陥製品のことである。規格は、不良品や欠陥品を出さないことで得られる顧客満足を得ることが狙いであった。2000年版でも不良品や欠陥品を出さないという品質保証の本質は変わらないが、それだけでは製品が売れるとは限らない競争社会の現実を反映し、顧客満足を追求することが狙いとなった。 品質保証という文脈で考えると、2000年版では組織の品質マネジメントのすべての業務を通じて製品への顧客のニーズと期待を満たすことを図る活動であり、2000年版の「品質」は顧客満足の意味であり(2)、適合製品とは狙いの顧客満足が得られた製品のことを指す。
 
  組織が時代の変化によらず一貫して顧客満足を得て発展し続けられるかどうか、現在の顧客及び潜在的な顧客、並びに、エンドユーザーの現在及び将来のニーズと期待を理解し満たすことにかかっている#8。組織は顧客のニーズと期待を汲み取り、また、その変化を把握して、それを満たす製品を供給しなければならない。ここに、製品に関する顧客のニーズと期待は顧客が必要としている事項という意味で「顧客の要求事項」と呼ばれ(8.2.2項)、組織にとっては顧客に関する必要事項であるという意味で「顧客要求事項」とも呼ばれる(5.2, 6.1 b)項など)。両者は同じことであるが、規格の文脈では「顧客の要求事項」は顧客の想いそのものにおけるニーズと期待であり、「顧客要求事項」はそれを組織が推し量った結果の組織の認識における顧客の想いのニーズと期待である。規格が定義する「顧客満足」は、顧客自身の想いである「顧客の要求事項」が満たされた程度に関する顧客自身の認識*のこと#2である。組織は顧客自身の想いである「顧客の要求事項」を推し量って「顧客要求事項」を決定し、それを満たす製品を顧客に供給しなければならない。しかし、製品が受け入れ可能かどうかは、つまり、製品の顧客満足度は最終的には顧客が決める#7。所定の満足が得られなかったとすれば「顧客要求事項」の決定が適切でなく、「顧客の要求事項」と合致していなかったということになる。
 
(2) 製品関連仕様
  顧客要求事項を満たす製品がどのような製品であるのかは、その製品に必要な条件、必要な事項という意味の「製品要求事項(product requirements)」の形で表される(6.3, 7.2.2 a)項など)。これは、本7.2.1及び7.2.2項の標題などでは「製品に関連する要求事項(requirements related to the product)」と表現されている。5.2項では「顧客要求事項を決定する」として7.2.1項が参照されており、その本項が「製品要求に関連する要求事項を決定する*」であるのは、決定した顧客要求事項を製品要求事項に変換して表すことを意味している。 2000年版原案DISの5.2項が「顧客のニーズと期待を決定し、要求事項に転換する」と規定していたのは、この意味である。
 
  しかし、顧客要求事項も製品要求事項もどちらも顧客がどのような製品を必要とし望んでいるかということであり、基本的には同じことである。異なるのは、顧客要求事項は顧客の想いであり、組織はこれを推し量る立場であるのに対して、製品要求事項は組織自身が決めた自身の認識であるという点である。また、実務的には顧客要求事項は、顧客のニーズや期待という漠然とした概念に留まることもあり、また、顧客が製品に期待する機能や性能でしか表されていないことが普通である。これに対して製品要求事項は、その顧客要求事項を満たす製品がどのようなものであるかを種々の必要条件として具体的、定量的に表わされていなければならず、製品の機能や性能だけでなく、それを具現化する製品の構造、部品、機構、形など製品の実体をも表したものでなければならない。製品要求事項という英語が複数形であることからもわかるように、どのような製品であるかは、多くの製品要求事項によって表現することができる。製品を一連の製品要求事項で表わすということは、製品の仕様を明確にすることに他ならない。製品要求事項は組織の実務では「製品仕様」と置き換えて呼ぶのがわかり易い。規格では「要求事項」とは「ニーズ若しくは期待」を意味し#11、一連の要求事項を列記した文書は「仕様書」#10と呼ばれ、また、ISO文献では「要求事項」と「仕様(specification)」とは相互互換的に使われる(1)とされるから、製品仕様という呼び方は規格用語上も当を得たものである。
 
  この製品要求事項を満たす活動、つまり、定められた製品仕様の製品を生み出す製造又はサービス提供を中心とする一連の業務は規格では「製品実現」(7章)である。製品実現の計画活動(7.1項)は、この製品要求事項を満たすように製品実現の諸業務又は工程を設計することであり、この計画活動において製品要求事項は製品実現の一連の業務の最終目標としての「製品の品質目標」に転換される(7.1 a)項)。ところで本項a) では、製品要求事項には製品の引渡し及び引渡し後の活動に関する要求事項が含まれると記述されている。製品の顧客のニーズと期待に関係する製品引渡し活動の必要条件とは例えば、識別、取扱い、包装、保管、保護(7.5.5項)のようなものについての条件であり、どのような製品かという製品仕様とは直接関係はない。引渡し後の活動とは保守サービスなど94年版が「付帯サービス」として規定していた#9活動などであるが、これも組織が顧客に引渡す製品自身の仕様とは直接関係がない。この他にも、どんな製品かとは直接関係なくとも、製品機能説明の活動や製品使用相談などの関連サービスなど、その製品の顧客満足を得るために必要な活動があり、これらの必要及びその在り方も規格では製品要求事項の範疇である。従って、「製品要求事項」とは正確には“製品仕様及び関連活動の仕様”という意味であり、製品関連仕様とも呼ぶのが適切である。 製品実現の計画(7.1 a)項)では、製品実現の一連の業務の目標を「製品の品質目標」と「製品の要求事項」として決めるよう規定されているから、製品要求事項を構成する“製品仕様”が前者で、 “関連活動の仕様”が後者に対応すると考えることができる。
 
(3) 製品の特性
  規格では、それがどのような製品であるのかを表す指標は「特性」と呼ぶ。従って、顧客のニーズと期待は、製品の特性に関するニーズと期待である。製品要求事項は製品の特性で表される。「特性」とはdistinguishing featureと定義され#12、「そのものを識別するための性質」と和訳されているように、あるものとあるものを区別する指標となる、ものの特徴のことである。規格では、「特性」の種類に、物質的な(機械的、電気的、化学的、生物学的など)、感覚的な(嗅覚、触覚、味覚、視覚、聴覚的など)、行動上の(礼儀正しさ、正直さ、誠実さなど)、時間に関係する(正確さ、信頼性、利用可能度など)、人間工学的な(生理的、安全性など)、機能上(飛行機の最高速度)の、各特性があると説明されている#13。 規格では、製品要求事項に関連する製品の特性は「製品の品質特性」#14と呼ばれる。この製品の品質特性は「製品に固有の特性*」を指し、価格など製品の本質ではない付与された特性は品質特性ではない。製品引渡し活動や引渡し後の活動の要件は製品要求事項に含まれるが、事業目的の製品の品質特性の本質ではない。例えば包装品質や製品輸送品質に関する特性は製品の品質特性には含まれない。しかし、例えば製品の製造とその宅配を事業とする場合には、製造されたものと宅配サービスの両方が製品である#1から、製品輸送品質は品質特性である。
 
  このような定義の「特性」は2種類に分けて考えることが必要である。すなわち、その製品はどのようなものかを表し、又は、その製品とはこのようなものであると特定する、つまり、製品の実体を表すのに適用される特性と、その製品がどのように優れているか、顧客は何を必要とし期待しているか、つまり、顧客に提供する価値に関する機能、性能、効用、効能などを表すのに適用される特性とである。製品4類型#1の内の ハードウェア製品や素材製品の場合、そのものが何であるかは主として外観、形状、構造や構成要素、組成、動作機構など物質的特性で表され又は特定され、機能、性能などの機能的、感覚的、人間工学的、時間的特性が顧客の価値に関係する。ソフトウェア製品では、それで何ができるか、何が得られるかなどの機能的特性で製品が表され又は特定され、機能、効用など機能的特性が製品の価値に関連する。サービス の場合は、どのような価値をどのように提供するのかというやはり機能的特性で表され又は特定され、機能や効用に関係する出来ばえ、便利さ、印象など機能的、感覚的、時間的、行動的特性が製品の価値に関連する。今日、顧客は地球環境保全に対する関心と利害関係を強めているから、顧客に提供する価値として製品の環境破壊への影響の少なさ又は環境保全への寄与の大きさが重要となってきている。このような製品の品質特性は、ISO14001では組織が管理し又は影響力を及ぼすことのできる「製品・サービスの環境側面」#15の環境影響の種類に相当する。
 
 
3. 製品要求事項の決定
(1) 顧客のニーズと期待の把握
  顧客のニーズや期待には、このようにあればよい、このようにあってほしいと顧客自身が自覚しているものと、製品を引渡され又使用して初めてこれは便利だとか快適だとか感じるようなこと、すなわち、顧客が自身で自覚していなかったニーズや期待とがある。顧客がこうあってほしいという希望の性能や機能が明確であっても、それに不可分なニーズや周辺のニーズまで考えないのが普通であり、顧客には意識するニーズや期待を製品のイメージに変換することも難しい。顧客が意識するニーズや期待には限界がある。顧客は製品機能や製品実現の専門家ではないから、製品に何が期待できるのか、どのようなことが技術的に商業的に実現可能なのかもわからない。顧客自身が知らない、また、考えることのできない潜在的なニーズや期待があるとされるのは、この故である。
 
  組織が製品のニーズと期待を把握する機会、又は、把握する目的は3つに大別できる。ひとつは、現実に顧客から引合、契約、発注又は購入の意志表示があり、その製品に関する顧客の意向又は希望を把握する場合である。 もうひとつは、潜在的なものを含めて特定の顧客又は特定の市場の全体的なニーズと期待を組織が主体的に推定し把握する場合である。これは、事業戦略や製品戦略の構築、変更、或いは、カタログやメニュー型製品に関する新製品の企画、開発の場合である。更に、どのような組織も、事業の継続的発展を図るために、日常的に顧客のニーズと期待の個別又は全体的な変化を追跡、把握することが必要である。
 
(2) 製品関連仕様の決定
  個別の取引においては、顧客がどのような製品を求めているのかについて何らかの意思表示がある。これを規格は「顧客要求事項は、顧客との契約によって規定されることもあり、組織自体がこれを決定することもある」#7と説明している。 カタログ型製品など独自の新製品の企画又開発の場合でも、市場調査などで顧客が意志表示をすることがある。顧客の意思表示は製品に対するニーズや期待だけでなく、具体的な製品仕様や製品の受取り方のような関連活動の要件に及ぶこともある。顧客のニーズと期待を具体的な製品と製品に関連する活動の仕様、つまり、製品関連仕様に展開する活動を、規格では「製品に関連する要求事項(又は、製品要求事項)の決定*」と呼ぶ。
 
  製品関連仕様の決定は一般には、このような製品がほしいと顧客が意思表示したニーズと期待又は製品関連仕様を基にして、顧客が受け取って満足するように製品と関連活動を設計することである。顧客がどの程度意思表示するのかについては、上記のように個別の取引の場合か独自の新製品企画の場合かによって異なり、また、前者の場合も業種業態により、顧客の明示の要求と要望を基に顧客と協議しつつ決定する場合から一切を組織が独自に行う場合まで種々である。
 
  個々の応札、受注、申込み受付においては、顧客の要求や要望は見積依頼書、注文書などの文書、或いは、口頭で伝えられる。一般に顧客は購買目的の機能や性能を明らかにしても製品仕様詳細までは伝えない。入手価格の上昇への懸念などから製品関連仕様に対する期待を自己抑制することもある。逆に、一定の契約関係の下で継続的に取引が行われている場合では、基本必要事項が基本契約書に規定されたり、永い取引で約束事が積み上げられていたり、必要な顧客満足を得るための特別な製品仕様の適用を組織独自に実施していることが少なくない。製品に適用される法規制順守は顧客には取引の前提である。
 
  顧客満足向上は組織の発展が目的であるから、顧客のニーズや期待は、組織の能力や経済性など組織の都合による制約の下に製品関連仕様へ変換されるのが当然である。また、顧客のニーズや期待を満たす前提で、業務能率その他の組織の都合による製品仕様の追加又は修正を加えることも行われる。
 
  組織は顧客が伝える要求、要望を基礎としながら、顧客のニーズと期待を推し量り、顧客が製品を受け取った時に必要な満足が得られるように製品関連仕様を決定しなければならない。この決定に関して製品関連仕様は、次の3つの要素で構成されると考えることができる。
@ 顧客の意思表示の製品関連仕様:  顧客の想いとして明示的、暗黙に意思表示された製品関連仕様
  (イ) 顧客が文書ないし他の手段で、意思表示した製品関連仕様
  (ロ) 顧客が意思表示した製品関連仕様に当然付随する、又は、不可分な製品関連仕様
A 組織の独自の判断の製品関連仕様:  製品の満足を得るために顧客が意思表示した分以外に必要な製品関連仕様。
 A-1顧客の意思表示の製品関連仕様を補足する製品関連仕様
  (イ) 顧客が意思表示していないが、顧客の想いを満たすために必要な製品関連仕様
  (ロ) 顧客の想い以上の顧客満足を得ることができる製品関連仕様
 A-2 製品供給者の責任として満たす必要のある製品関連仕様
  (イ) 法令その他の規制、業界や組織の行動指針、自主的規制や努力目標
  (ロ) 公的規格、業界規格、組織の独自規格
B 組織の業務の都合上、望ましい製品関連仕様
  (イ) 組織のブランド 戦略上の都合 = デザイン、設計寿命、商標表示、包装、付帯サービス、その他のこだわり
  (ロ) 製品実現上の都合(効率性、容易さ、経済性) = 仕様集約、合否判定基準の集約、段階化
 
(3) 差別化
  競争社会では多くの組織が同じ種類の製品を供給しており、また、技術の進歩がある。同じような製品でも顧客のニーズや期待の満たされ方は供給する組織により異なり、次々と新規な機能や性能、価値の製品が供給される。これに伴い、また、顧客を取り巻く環境の変化によって顧客のニーズと期待は変化する。引渡された又は使用した製品に対する顧客満足は相対的なものであり、顧客満足には絶対的な、また、永続的なものはない。
 
  顧客の指定の製品関連仕様の製品を供給する業態であっても、指定通りの製品を指定通りに供給しているだけでは競合他組織と同じ程度の満足しか顧客に与えられない。組織が製品仕様に、また、製品の品質そのものでなくとも、顧客の指定にない、しかし顧客に価値をもたらすであろう仕様、方法或いは条件で製品を供給すれば、顧客は組織の製品に対して競合他組織の製品に増しての満足を感じる。市場型の製品の場合は言うまでもない。競争社会の中を製品の顧客満足の持続的向上によって事業の発展を図らんとする組織は、顧客に他の競合組織との違いを認知してもらい競争優位を確立する差別化戦略を確立することが必要である。製品の差別化戦略については例えば、製品の品質、デザイン、信頼性、商品配送、アフターサービスで他組織との違いを際立たせたりするのが効果的であり、サービス製品の場合は信頼性、専門的知識、利便性が差別化の有効な要素となると説明されている(4)。
 
  差別化は、顧客が ニーズや期待、或いは、必要とする製品仕様及び関連要件をどの程度明確にするかにかかわらず、顧客が明確にしない ニーズや期待に組織が対応することである。最も効果的な差別化は、市場調査や日常の顧客情報には現れない潜在的なニーズと期待を抽出し、対応することである。いわゆる革新的商品又はサービスと言われ爆発的に売れるのはこのニーズや期待を組織が汲み取り、この製品化に必要な技術力を含む組織の能力を培った結果であることが多い。
 
 
4.規格要求事項とその真意
(1) 次の事項を明確にする [前段記述]
  「製品に関連する要求事項」とは、「製品要求事項」と同義語であり、製品に必要な条件、必要な事項という意味である。製品要求事項の一覧はそれがどのような製品であるかを表す。また、顧客満足の製品とするためには、付帯サービスや製品の包装、引渡しなど関連する活動も必要であるから、それらの活動の必要条件、必要事項も製品要求事項である。すなわち、製品仕様及び関連する活動の仕様、つまり、製品関連仕様を意味する。JIS和訳条文の 「明確にする」は determineであり、「決定する」である。組織は、個々の製品について、顧客のニーズと期待を満たし、顧客に受け入れられるために、どのような製品でなければならないかを検討し、製品関連仕様を決定することが必要である。
 
  製品実現の計画活動の手順の一環として組織は、顧客のニーズと期待をどの事項とどの事項として把握しなければならないか、この内で顧客との間で確認又は合意しておかなければならない事項はどれとどれかを明確にしておくことが必要であり、それらを製品関連仕様に変換する基準を明確にしておくことが必要である。契約や特定の受注を前提としない新製品の企画や開発の場合は、その必要を誰が顧客のニーズと期待の変化に関するどのような情報で発案するのかの手順を決めておくことが必要である。特定した顧客のニーズと期待から製品関連仕様を検討し決定する基礎となるのは、トップマネジメント の製品戦略に係わる決定(5.6.3 b)項)であり、それと整合して顧客満足向上に関する意図及び方向を示す品質方針(5.3項)である。そして トップマネジメントは、個々の製品が品質方針の意図する狙いの顧客満足を得ることができるように決定されるよう、関係業務を監督しなければならない(5.2項)。
 
  ここに、製品仕様は顧客満足に直接関係する機能、性能、効用、効能などに関する仕様と、それらを具現化する構造、構成要素、組成、動作機構、行為、外観、形状など製品の実体に関する仕様から成る。 成約、受注又は受付けた個々の製品の製品関連仕様が決められた場合には、この製品をどのように実現するかの製品実現の計画活動(7.1項)に供される。この段階では、製品仕様は「製品の品質目標」、関連活動の仕様は「製品の要求事項」に、それぞれ変換される(7.1 a)項)。 特定したニーズと期待から、或いは、特定した製品の機能や性能に関する仕様から、それを具現化する製品の構造や機能など実体に関する製品仕様全体を直ちには確定できない場合は、設計開発活動(7.3項)が必要になる。
 
  個々の製品の顧客のニーズと期待を把握して、必要な顧客満足が確実に得られるように製品関連仕様を決定するには、製品関連仕様を次のa)〜d)項の4つの要素に分けて検討し、決定することが必要で、効果的である。
 
(2) 顧客が規定した要求事項 [ a)項 ]
  これは、顧客が明確に意思表示した又は組織が顧客と合意した製品関連仕様のことである。 これは一般に、見積書、契約書、注文書、付属図面、などに記述される。顧客が カタログやメニューから特定の製品を指定した場合は、それら又は製品説明書、請求書や領収書に記述された製品関連仕様が「顧客が規定した要求事項」に相当することになる。
 
  「これには引き渡し及び引き渡し後の活動に関する要求事項を含む」とあるのは、製品仕様そのものではないが、製品を受け入れる上で顧客が希望し又は関心を抱く関連事項があることを示唆している。それらの活動には例えば、製品の包装、輸送、引渡しに関する方法や条件、或いは、据付け、部品補給、保全などの付帯サービスの方法と条件、また、使用相談、苦情受付などのアフターサービスの方法や条件などがある。 顧客と契約条件を合意する場合は、製品仕様だけでなく、これらの関連する事項についても要件を決めておくことが必要である。
 
  顧客の意思表示は顧客の製品に対する想いを伝えるものであり、普通は購買目的に直接係わる事項、とりわけ、機能や性能、価値しか表明されない。顧客が表明しなくとも、表明したニーズと期待、或いは、製品関連仕様が意図する製品に当然付随する事項、又は、そのような製品として不可欠な事項などは、それを満たさないと顧客の購買目的は達成されない。つまり、顧客満足を得られない。また、永い取引で文書化されないで暗黙の合意となっている仕様や要件も少なくない。更に、顧客の想い、或いは、契約、発注又は申込みの意図を間違いなく把握するために、表明されない仕様を確認したり、協議しながら契約仕様を確定してというようなことが行われている。実際の取引では、すべての製品関連仕様を明示して合意することは不可能である。例え、顧客と合意した製品関連仕様を記述する文書に記載されていないとしても、顧客の想いにある仕様や条件が満たされていなければ製品は顧客には受け入れてもらえない。
 
  「顧客が規定した(specified by the customer)」 の specify は、数値を挙げるなど具体的に表すという意味(5)であるので、これら暗黙の必要を次のb)項に含める解釈が海外にもある。しかし、規格作成者のひとり、C.A.Cianfrani氏は、a)〜d)項のうち、b)項だけが2000年版で加わった概念であると説明している(6)。94年版では文書化された「注文要求事項」のみ満たせばよかったという解釈は規格制定の目的に合わない。94年版で組織が満たすべきであった「規定要求事項」とは、文書化された注文要求事項と付随する当然の暗黙の要件をあわせたものと考えないと規格を実際の商取引に適用する価値がない。しかし、この「規定要求事項」を満たすという顧客満足を追求する規格が、2000年版では顧客の想いの、また、それ以上のニーズと期待を満たすという顧客満足を追求する規格となり、このためにb)項の概念が追加されたと考えるのが適切である。
 
(3) 製品の用途に応じた要求事項 [ b)項 ]
  顧客満足の向上を掲げる2000年版では最も重要な規定である。 JISは「用途が既知である場合は、それらの用途に応じた要求事項」と和訳しており、「用途が既知である場合」を強調し、顧客の“要求”との誤解を与える訳文のため、規定の重みが伝わってこない。 英原文では「用途が既知である場合」は、文末に追記された where known (知られているなら) に過ぎず、本文は「顧客によって表明されていないが、決められた又は所定の使用のために必要な事項*」である。 どの製品も特定の用途を意識して企画され、販売されているから、where known (知られているなら) というのは一般的な使われ方ではなく、同じ用途であっても当該顧客に独特の、特別な使用、というような場合を指す。 組織は、顧客の要求( a)項)を満たすことは当然であり、顧客が言わなくとも、その他にもその製品に必要な事項があれば、それを満たす仕様の製品を顧客に供給することが必要である。 a)項の顧客が自覚し、意思表示する仕様を満たしただけの製品は、首尾よく製造又はサービス提供して顧客に引渡しても、顧客が製品を使用し又は引き取った時に、もう一度買おうと思う満足を感じるかどうかはわからない。 また、他の競合組織の製品と何も変わらないから、組織が競争優位を得ることはできない。これは、如何なる業種、業態にもあてはまる競争社会の現実である。
 
  「顧客要求事項が顧客と合意され、満たされている場合でも、それが必ずしも顧客満足が高いことを保証するものではない」#6のである。 組織は、顧客が明示的、暗黙的に意思表示したニーズや期待、又は、製品関連仕様(a)項)を基礎として、顧客の当該製品への想いや購買の目的を満たすために必要な事項がないかどうかを検討し、あればそれも製品関連仕様として追加しなければならない。 さらに、事業戦略として爆発的な売れ行きを計画し、又は、圧倒的な競争優位の確立を図るなら、顧客の想いを越える製品を供給することが必要である。この場合は、顧客が知らない、気がつかない、思いつかない ニーズと期待を抽出し、それを満たすよう製品関連仕様を決定することがとりわけ効果的である。
 
(4) 製品に適用される法令・規制要求事項 [ c)項 ]
  適用される法令その他の規制を満たすことは顧客のニーズや期待の根底にある。とりわけ製品の安全性に係わる規制が順守されているかどうかは顧客の強い関心事である。これには、製品に係わる環境法規制も当然含まれる。法令による規制でなくとも、JISなどの工業規格や農業規格、或いは、業界や組織の行動指針や独自規格、又は、自主的規制や努力目標なども公表し、或いは顧客に約束した場合は、その順守は顧客のニーズ又は期待となる。ISO9001は製品の顧客満足向上 の要件を規定する規格であるから、製品に適用される法令その他の規制のみで、製品実現の諸業務に適用される法規制には言及されていない。しかし、組織の事業活動において、これらの法規制を順守することは当たり前のことである。 また、例えば、自動車の修理作業の実施を国家資格を有する者に限る法規制はサービス提供の活動に適用される規制ではあるが、誰が修理するかは修理サービスの品質の指標でもあるから、製品に適用される法令その他規制として取り扱うことが必要である。更に、近年では顧客が、製品品質に直接関係のない製品実現や経営活動における法令順守を含む組織の倫理的行動に対する関心事を強めてきている。顧客に製品を買って貰うことを目的とする品質マネジメント活動が、これら活動に目配りをすることも不可欠である。
 
  組織は、適用が必要な法令その他の規制が間違いなく製品仕様又は関連要件に反映されるような手順を確立していなければならない。 環境法令その他の規制に関してISO14001は、順守すべき法令その他の規制を特定し、参照し、どのように適用するかを決定する手順の確立と実行を規定している。法令その他の規制がしばしば変更されるという実態に照らして、この規定が変更の時宜を得た、正確な把握と、その適切な適用を確実にする手順を含むものと理解されている。 製品の品質に関しても、法令その他の規制の順守を確実にするためには、適用必要な法令その他の規制を、その制定や改正の動向を含み、的確に把握する手順を確立しておくことが必要である。製品を海外に輸出する場合は、輸出先の法令その他の規制の管理についても、この手順に含めなければならない。
 
(5) 組織が必要と判断する追加要求事項 [ d)項 ]
  2000年版の原案DISでは、本7.2.1項は標題が「顧客要求事項の特定*」であり、a), b), c)項のみが挙げられていた。標題「製品要求事項のレビュー」の7.2.2項で、「特定された顧客要求事項を、組織が決定した追加要求事項と共にレビューすること*」が規定されていた。 このことから、d)項の「追加要求事項」は顧客のニーズと期待には関係しない、組織自身の必要のための事項を意味していることがわかる。また、「追加要求事項」は英原文では、any additional requirementsであり、 any は「どのようなものでも」「あれば」の意味である。 組織は、顧客のニーズと期待のa)〜c)項の要求事項を満たすという前提で、これ以外にもし組織にとって必要な事項があれば、それを製品関連仕様として採り入れてもよい。
 
  このような組織の都合には一般には、組織のブランド 戦略上の観点からの都合と、製品実現の効率性、容易さ、経済性などの観点からの都合があると考えられるが、如何なる都合であれ組織に必要なものは製品関連仕様に反映しなければならない。規格では品質特性には価格は含まれないし、価格を顧客要求事項や製品要求事項として取り上げることは規格の意図にはない。しかし、規格が顧客満足向上の追求の必要を規定するのは、組織の事業の発展のためである。顧客満足向上を図るために、顧客のニーズと期待を何がなんでも満たさなければならないという訳ではない。顧客のニーズと期待を製品関連仕様に変換する際には、価格を考慮することは当然であり、組織の製品実現の能力上の制約や都合、或いは事業推進上の思惑や必要を考慮するのも当然である。 d)項の存在は、顧客のニーズや期待を満たすための製品のあり方という点で規格が事業や市場の現実に立脚するものであること示す証拠である。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9000, 3.4.2 参考1.
#2 ISO9000, 3.1.4
#3 ISO9001:1994, 4.2.1
#4 ISO9001:1994, 1.
#5 ISO9001:1994, 4.3.2
#6 ISO9000, 3.1.4 参考2.
#7 ISO9000, 2.1
#8 ISO9004:2000, 5.2.2
#9 ISO9001:1994, 4.19
#10 ISO9000, 3.7.3
#11 ISO9000, 3.1.2
#12 ISO9000, 3.5.1
#13 ISO9000, 3.5.1参考1.
#14 ISO9000, 3.5.2
#14 ISO14001:2004, 4.3.1
 
引用文献 (英文献及び 文中の* 印は著者による翻訳)
(1) J.Cascio他: ISO14000ガイド、日本規格協会、1996.12.16; p.49
(2) ISO/TC176:ISO9000ファミリー改訂版のコミュニケーション及びマーケティングに関する推奨事項、規格協会ホームページ,2001.1
(3) C.MacNee他: Transition to ISO9001:2000, BSI Publications,2001;p.32
(4) 野村総合研究所: 経営用語の基礎知識, www.nri.co.jp
(5) S.Wehnmeier他: Oxford Advanced Learner’s Dictionary, Oxford University Pres
(6) C.A.Cianfrani: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001;p.84
H20.1.19 
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