ISO9001/ISO14001 コンサルティング・研修
6.4 項  作業環境 実務の視点による
ISO9001:2000の解説  <その34>
35-01-34
 6.4  作業環境
[第1文] 顧客満足の組織は、製品要求事項への適合を達成するために必要な作業環境を明確にし、運営管理すること.
1.[6.4項]の趣旨
   本項は、要員に品質マネジメントの諸業務を効果的に行わせるために業務を行う環境つまり作業環境の整備が大切であること、及び、必要な作業環境の範囲を示唆して、組織が不可欠な作業環境を常に整備、運用していることを確実にする作業環境のマネジメントの必要を規定している。
 
 
2.作業環境の運用管理
(1) 作業環境
   製品の所定の品質を得、不良品を作らないためには製造過程で作業環境を適切に維持することが必要である。これは、製品が サービスの場合の サービス提供活動、例えば、調理、修理、運転、電話応対などでも同じである。94年版では、管理された状態で業務が行われるためには適当な作業環境の適用が必要であることを規定し#1、これらの作業環境とは事実上、照度、気温、雰囲気中の粉塵や細菌、清潔さ、衛生状態などを指していた。
 
   しかし、2000年版は「作業環境」を、「その下に作業が行われる一連の状態*」と定義#2し、「この状態*には、物理的、社会的、心理的及び環境的要素を含む」との註釈を付している。この定義によって規格は、94年版が実質的に意図し、2000年版では温度、作業雰囲気組成*が例示され#2、物理的又は自然環境的な作業環境に分類されている作業環境の他に、社会的又は心理的な作業環境が存在することを明確にし、そのような作業環境の整備も不良品を出荷せず製品の顧客満足向上を図る上で必要であることを指摘している。
 
   品質マメジメントの効果的実行のためには、各要員が委ねられた業務を手順通りに完遂する業務遂行力(6.2.1項)、要員の業務遂行を効率的、効果的にするための物的資源(6.2.2項)、及び、要員のやる気と参画意識、そしてその基となる「認識」(6.2.1 d)項)が不可欠である。この「認識」の醸成に与る作業環境が、社会的、心理的な観点の作業環境であり、上記の定義#2ではこれは例えば、表彰制度、人間工学的側面であるとされている。このJIS和訳の「表彰制度」はrecognition schemes であり、人々が本質的に持つ承認欲求に対応する制度や施策、職場風土のことである。また、人間工学とは、業務実行の効率性や安全性を高めるためには機械や道具、作業方法、作業環境などを要員の人間としての基本特性に適合したものとすることが大切であり、これを要員の生理的、心理的な観点から追究する学問である(1-a)。ただし、作業環境のこの両要素を敢えて区別する必要はなく、両者を合わせて物理的と自然環境的な要素に対比して人的要素(7)(8)と呼び、理解するのが実務的である。このように規格が作業環境に人的要素をとりあげたのは、粗野で過酷な作業環境の排除は当然として、人間として働き易い、意欲をもって働くことのできる組織や職場の雰囲気、風土、文化、制度や施策の整備、確立が効果的な業務遂行に必要であるという近年の経営管理の考えを反映したものである。
 
(2) 作業環境のマネジメント
   94年版では製造又はサービス提供活動の管理(制御)の要件を規定した4.9項に、「適当な作業環境を適用すること*」として規定されていたから、作業環境の維持管理であった。2000年版では6章の標題「資源マネジメント*」に明確なように、既存の作業環境の運用管理ではなく、要員が常に必要な作業環境の下に業務を行う状況を維持するという作業環境の マネジメントの規定となっている。
 
   物理的、環境的な観点の作業環境は特に、また、人的要素の作業環境も場合によっては、新立地、新事業所の開設、新技術や新設備の導入、法令の改正、或いは、年齢構成など要員事情の変化、社会情勢の変化、更には、作業環境維持の物的資源の経年劣化などによって、新たな作業環境の整備ないし改善が必要となる。また、作業ミスや不良の多発など品質マネジメントが効果的に実行されない場合、作業環境が十分でないことが原因であることもある。組織は現在、将来に必要な、或いは、十分でない作業環境を特定し、時宜を得て必要な作業環境を整備し、いつの時点でも作業環境の不備が品質マメジメントの諸業務の効果的実行の障害となることを避けることが必要である。
 
   人的要素の作業環境は、人事処遇、福利厚生、健康管理、安全管理等の制度や施策であり、一般に要員処遇や勤務環境に関する組織の基本方針に基づき戦略的に決定される。この作業環境の不足、新たな必要は、時代の変化など長期間にわたる情勢の変化によって生ずることが多い。この種の作業環境の必要を特定し、整備し、維持するというマネジメントのPDCAサイクルは、他の作業環境や他の資源のそれとは実務的には趣を異にする。
 
   しかしいずれの場合も作業環境のマネジメントのPDCAサイクルの基本は同じである。組織は不十分な作業環境を特定し、整備して、既存の作業環境と合わせて確立された作業環境の下で要員に業務を行わせ、実際に作業環境の必要が満たされているかどうかを評価することが必要である。この評価は、確立された作業環境の下で業務を行ったことによって、作業環境が不十分であり改善や新たな整備が必要と判断される根拠となった品質マネジメントの当該業務の実行上の及び結果の問題が解消されたかどうかでなければならない。問題が解消されていなければ、作業環境の必要を見誤ったか、品質マメジメントの問題の解決の手段として当該作業環境の整備を決めたことが適当でなかったということである。問題の解決のために新たな処置を検討し、実行することが必要である。また、これらの事項は、トップマネジメント自身の評価、判断に供されることが必要である(5.6.3 c)項)。業務の効果的実行に不可欠な作業環境の下に要員を置くことを確実にする作業環境のマネジメントのこのPDCAサイクルにおいては他の資源マネジメントと同様、ここで特定された作業環境の必要な整備や改善を確実に実現する計画と実行とその管理(制御)のPDCAサイクルも必要であり、既存の作業環境を所期の目的を果たすよう維持、管理(制御)するPDCAサイクルも必要である。
 
   これら2種の管理(制御)を含む作業環境マネジメントをPDCAサイクルに則った体系的活動とする必要を規定するのが本項の趣旨である。すべての作業環境を一括したマネジメント活動、或いは、その業務体系としてのマネジメントシステムを改めて確立し或いは実行することは規格の意図ではない。組織にこれら作業環境に関係する特定のマネジメント活動ないしマネジメントシステムがあれば、その中に品質マメジメントの観点を織り込めばよいし、もし、そのような活動や業務体系があいまいなら、そして、当該作業環境の必要が品質マメジメントに特有かそれに近い場合は、その作業環境のマネジメントを品質マメジメントの中で行えばよい。いずれの場合も、組織が運用する作業環境の内の品質マネジメントに関係するものについては、少なくともマネジメントレビュー(5.6.3 c)項)での評価対象として、組織内に必要な間違いない作業環境が確立していることを確実にするようにしなければならない。
 
 
3. 人間重視の経営
   戦後日本の著しい経済発展の背景であると一般に認められる日本的経営は、1980年代になって経済発展の基礎となった優れた製品品質との関係で世界に注目され、日本企業の海外進出で直接的にも海外移転された。しかし、この日本的経営が何かについては議論の分かれるところであり、終身雇用制度、年功制、企業別労働組合をその特徴とする説が最も典型的であり、企業内移動と内部昇進制、合意による意思決定を加える説(1-a)、更に、企業内教育訓練制度などの雇用慣行を指摘する向きもある。 一方、これらは日本的経営の本質ではなく、それを支える要素としての形態に過ぎないとする見解(2-a)もあり、日経連はその報告書(3)の中で「日本的経営の特質は、それらの形態の根本にある人間中心(尊重)の経営と長期的視野に立った経営という理念にある」と主張している。人間重視の経営は、「技術や制度と人間労働との接点におけるノウハウ」という「ヒューマン・ウェア」であると表現され(4)、また、労働運動の立場から「強制と誘導で巧みに労働者を陰陽の競争にかりたてて、自発的な働き過ぎとも見える搾取強化に労働者を誘い込むしくみを内蔵した、しばしば集団主義により全員参加の外観をとった、きわめて柔軟な経営体系である(2-b)」と定義されたりする。また、その源流を米国で1950〜1960年代に登場した経営管理学説「人間資源論(Human resource theory)」(1-b)とその経営管理技法である「人間関係管理(Human relations)」に求める説(5)もある。 これを戦後の日本企業が、職場の民主化と明朗化のために導入し、従業員の勤労意欲の向上、更には、従業員の自発的協力を引き出す手段として、職場の雰囲気を良くし、従業員の満足感、帰属意識、安定感、会社への信頼感を高める種々の制度や施策を実行したというものである。2000年版規格は、このような要員の人間としての側面を重視し、人々のやる気を育む制度、施策、職場の雰囲気などをも作業環境と認識して、その整備、確立の必要を明らかにしているのである。
   
   この日本的経営の人間重視の諸制度、施策を欧米人がどのように理解したかは、例えば、米国の国家経営品質賞の基準(6)によく現れている。すなわち、同賞では受賞基準の7要素のひとつに「人的資源重視」を挙げ、「組織の全体的目標の達成に向けて従業員が潜在能力を開発し全能力を活用するよう、どのように従業員を動機づけ、どのように能力発揮を可能にしたか」ということ、及び、「従業員の成長と組織の発展、及び、優れた企業業績に資する作業環境と従業員支援風土の構築と維持にどのように努力したか」を問う。申請者は、勤務制度としての業務の与え方、報酬、昇格昇進、その他の労働慣行、そして、従業員能力開発施策としての教育と訓練に対する支援策、更に、従業員のしあわせ感と満足感に関する施策としての作業環境と従業員支援風土を、それぞれどのように実行しているかを明らかにしなければならない。
 
   また、規格解説書では、D.Hoyle氏(8)が、倫理意識、企業文化、職場風土の影響を含む人間関係、及び、人事評価、負った責任、業務実績、昇進昇格、報酬、雇用の安定性、職場の人間関係、指導性、仲間意識、自負心、ストレスなど要員の内面的欲求や外部からの影響を、作業環境の人的要素であると説明している。それらのいずれもが、最終的に要員の業務に対するやる気に影響するからである。また、R.Tricker氏(12)は、人的要素として作業方法、業績、参画機会、安全規則や指導、人間工学を挙げ、物理的要素も含めて作業環境が人々のやる気、満足及び業務実績に影響すると説明している。しかし、規格執筆者ではC.A.Cianfrani氏(8)は人的要素として、作業方法、保護具着用を含む安全規則と人間工学を挙げるだけであり、C.MacNee氏ら(10)は人的要素の存在自体に触れていないし、TC176商業本(11)も設備に関する人間工学的配慮の大切さに触れているだけである。社会的、心理的な意味での作業環境の存在を明確にし、既存の作業環境の運用管理だけでなく必要を特定し満たすというマネジメントの必要を規定する2000年版であるが、規格執筆者の問題意識との間にずれがあるようにも見受けられる。人的資源(6.6.2項)に関する「力量がある」と「資格がある」の区別、それらと教育訓練との関係、及び、「認識」の位置づけに関する規格の条文表現の不一致と同様、規格執筆者間での「認識」と作業環境に関する論理整理の進行過程上の問題かも知れない。
 
 
4.規格要求事項とその真意 −作業環境 のマネジメントの要件
(1) 製品要求事項への適合に必要な作業環境    [第1文 前半]
  この表現はJIS和訳文にわずかな違いがあるが、英原文では 6.3項と全く同じであり、事業繁栄に必要な顧客満足向上の達成、或いは、品質マネジメントの効果的な実行を可能にするために必要という意味である。従って、「製品要求事項への適合に必要な作業環境」とは、組織が品質マネジメントを効果的に実行するのに必要な作業環境という意味である。
 
(2) 必要な作業環境を明確にし、運営管理する   [第1文 後半]
   この英原文は、determine and manage であり、6.1項のdetermine and provide (特定し、利用できるようにする)、6.3項のdetermine, provide and maintain (特定し、利用できるようににし、機能を維持する)と意味するところは同じである。 manage は、 JIS和訳「マネジメント (management)」の動詞形であり、必要な作業環境の下で要員が業務を行うように、必要な作業環境を特定し、作業環境に係わる設備や制度、手順、規則、風土などを維持し、かつ、作業環境の維持、適用を監視し、作業環境の不備が理由となって品質マメジメントの業務に支障が出ないよう管理することを意味する。これには、新たに必要が特定された作業環境の整備や改善の確実な実行のための管理(制御)や既存の作業環境の所期の水準や決まりの通りに維持、運用する管理(制御)の活動が含まれる。同じマネジメント活動の要件が他の資源のマネジメントと異なる表現になってはいるが、特段の意味はなく、作業環境のマネジメントの要件を表現するのに、より適切な用語が用いられたものと考えればよい。なお、品質マメジメント の諸業務が効果的に行われ、目指す顧客満足の向上を間違いなく実現するためには、作業環境については物理的、自然環境的な要素だけではなく、人々のやる気を醸成する社会的、心理的要素も考慮することが必要である。
 
 
引用規格条項
#1 ISO9001:1994 4.9 b)
#2 ISO9000 3.3.4
 
引用文献 (英文献及び文中の * 印は著者による翻訳)
(1) 吉田和夫他: 基本経営学用語辞典、同文館、H6.3.3; a-p.210,b-p.147
(2) 牧野富夫: 日本的経営の変遷と労使関係、新日本出版、1998.3.5; a-p.12,b-p.14
(3) 日経連: 新時代の日本的経営−挑戦すべき方向とその具体策、1995.5
(4) 島田晴雄: ヒューマン・ウェア の経済学、岩波書店、1988
(5) 山崎広明他: 日本的経営の連続と断絶、岩波書店、1995.10.25; p.167
(6) NIST: 2001 Criteria For Performance Excellence; 5.1〜5.3
(7) C.A.Cianfrani: ISO9001:2000 Explained,ASQ Quality Oress,2001;p.73
(8) D.Hoyle: ISO9000 Quality systems Handbook,Butterworth-Heinemann,2001; p.230
(10) C.MacNee他: Transition to ISO9001:2000, BSI Publications,2001;p.30
(11) ISO/TC176: ISO9001 for Small Businesses, ISO中央事務局、2002; p.84
(12) R.Tricker: ISO9001:2000 of Small Business,Butterworth-Heinemann,2001; p.82
H19.11.15 
禁無断転載  (個人的使用のための複写歓迎)
 サニーヒルズ コンサルタント事務所    〒458-0031 名古屋市緑区旭出2−909